無限後退

無限後退とは

無限後退（むげんこうたい、英: Infinite regress）は、ある物事の説明や正当化が途切れることなく、同じ形式の説明が次々と続く現象を指します。このような説明の連鎖が途切れずに無限に続く場合、その正当化の手法はほぼ失敗したと見なされます。この概念は、論理的な議論や哲学的な探求において頻繁に取り上げられる重要なトピックです。

無限後退は循環論法と似た性質を持っていますが、循環論法が示すのは説明がループしている状態を指します。一方、無限後退の場合は、直線的に続く説明の連鎖を示しています。このため、無限後退はしばしば無限背進（むげんはいしん）、無限遡行（むげんそこう）、あるいは無限退行（むげんたいこう）と呼ばれることもあります。

概要とトリレンマ

物事の説明や正当化の連鎖は、最終的には説明のない原理や独断に行きつくか、循環論法に突入するか、無限後退のどれかに落ち着かざるを得ないと考えられています。この現象は、「ミュンヒハウゼンのトリレンマ」（または「アグリッパのトリレンマ」）と称され、「説明のない原理」「循環論法」「無限後退」からどれを選ぶかは、真理や知識に関する認識論の立場に基づいています。具体的には、説明のない原理で終点を持つことは基礎づけ主義と関連し、循環論法を認めることは整合説と関連があります。そして無限後退を受け入れる姿勢はそれほど広くは知られていませんが、無限主義（Infinitism）と呼ばれ、一部の哲学者が支持しています。

無限後退の実例

無限後退の具体的な実例として、よく引用されるのが「神の宇宙論的証明」と「ホムンクルスの誤謬」です。これらの議論は、無限後退がどのように形成されるかを理解する上で非常に有益です。

神の宇宙論的証明

神の宇宙論的証明は、存在するものには必ず原因があるという前提から始まります。

1. 入り口となる前提1：存在するものには必ず原因があります。
2. 前提2：世界は存在します。
3. 結論：したがって、世界の原因が存在する（それを神と呼ぶ）という流れです。

この議論は、神が世界の原因であるという主張を立てています。しかし、これには次の無限後退が待っています。

1. 前提1：存在するものには必ず原因があります。
2. 前提2：神が存在します。
3. 結論：したがって、神の原因が存在する（それをAと呼ぶ）。

このプロセスは続き、Aの原因としてBが、Bの原因としてCが……と、終わりなく繰り返されます。

ホムンクルスの誤謬

別の例として、「ホムンクルスの誤謬」があります。以下のようなやり取りが展開されます。

1. 問い：目や耳から脳に入った情報がどのように認知されるのか？
2. 説明：それは脳にいる小人（ホムンクルス）が脳の活動を観察しているからです。

この説明も、次の問いによって無限後退に陥ります。

1. 問い：その小人が情報を認知できる理由は？
2. 説明：さらに小さな小人Aがいてその脳を観察しているからです。

この流れも同様に続き、終わりのない連鎖を形成します。人間の脳の中にいる小人の脳の中には小人Aがいて、さらにその中に……と続く一連の問いと答え。

また、ルイス・キャロルが著した『亀がアキレスに言ったこと』では、ゼノンのパラドックスとの類似性を示す良い例として知られています。

まとめ

無限後退は、説明や正当化が終わらない連鎖に陥る現象です。この概念は、哲学的な探求において重要であり、自他の理解に役立ちます。無限後退の議論を理解することで、さまざまな認識論の問題に対処する際に、より深い洞察を得ることができるでしょう。

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