煙突屋ペロー

『煙突屋ペロー』は、1929年から1930年にかけて、アマチュアアニメーション制作団体「童映社」によって制作された短編影絵アニメーション映画です。この作品は、長らく所在不明となっていましたが、1986年に奇跡的に再発見され、その後、完全復元版が制作され公開されました。

制作の背景

「童映社」は、1929年に同志社大学の学生であった中野孝夫を中心に結成されたアマチュア団体です。メンバーは、田中喜次、田村潔、舟木俊一、柴田五十五郎など、最終的には10人ほどが集まりました。彼らは、アニメーションを中心とした映画制作と、子供向けの映画上映活動を行っていました。メンバーの多くはアマチュアであり、アニメーション制作は試行錯誤の連続でしたが、「子供たちに面白くて有益な映画を見せる」という目標を掲げ、熱意をもって制作に取り組みました。その結果、1929年には『アリババ物語』と『一寸法師』が制作され、『煙突屋ペロー』は3作目として制作されました。

上映の歴史

記録に残る最も古い上映は、1929年11月17日に開催された「第三回コドモ映画会」でした。この時は、完成していた部分のみが上映されましたが、翌1930年2月には全編が完成し、4月13日の「コドモシネマ会」で初めて全編が上映されました。また、同年5月31日には、日本プロレタリア映画同盟（プロキノ）主催の労働者向け上映会でも上映されています。この上映は、メンバーとプロキノ関係者の繋がりから実現したものでした。

プロキノでの上映は、当局からの様々な制限を受けながらも、多くの観客を集めました。上映中には、戦争場面でナチス・ドイツの曲が流れ、それが『インターナショナル』に変わる演出が行われ、観客が『インターナショナル』を口ずさむなど、熱気に満ちた上映会となりました。この成功を受け、その後も数回プロキノ主催で上映会が開催されました。

あらすじ

物語の舞台は、トム・タム国最大の都市チク・タク市です。長い旅から帰還する王子を出迎えるために、街は賑わっていました。一方、煙突屋のペローは、煙突の修理中に、鷲に追われた鳩を助けます。鳩は感謝の印として、兵士を生む「まほうのタマゴ」をペローに贈ります。その後、王子の行列を見に行ったペローは、機関車の暴走事故を起こしてしまい、死刑を宣告されます。しかし、最後の望みとして煙突に登ることを許されたペローは、敵軍の襲来を目撃します。激しい戦争が始まり、ペローも煙突に設置した大砲で応戦しますが、味方は劣勢となります。そこで、ペローは「まほうのタマゴ」から兵隊を出し、トム・タム国は勝利を収めます。褒美をもらったペローは故郷へ帰りますが、汽車の中で戦争の爪痕を目の当たりにし、褒美と「まほうのタマゴ」を捨て、農民として生きることを決意します。

再発見と復元

童映社の解散後、フィルムは散逸していましたが、1986年に舟木俊一氏が自宅の押入れからフィルムを発見し、約50年ぶりに上映会が開催されました。しかし、発見されたフィルムは、物語の途中で終わっており、完全な形ではありませんでした。そこで、当時の資料や関係者の協力を得て、完全復元版の制作が決定されました。制作には、「グループ・タック」が協力し、「シネマ・ワーク」の伊藤正昭がプロデューサーを務めました。完全復元版は、ナレーション入りのトーキー版として制作され、1987年に完成披露試写会が行われました。

評価と分析

アニメ作家の松本零士は「つくった人の情熱が伝わってきます」と評価し、アニメ監督の杉井ギサブローは「当時を考えると、勇気と夢のある作品」と評しています。また、禧美智章は、アマチュア制作ながら、切り絵のシャープさや滑らかな動きを評価し、白黒2色だけでなく、中間色の灰色を効果的に使用している点を指摘しています。

一方、鄭忠實は、物語の構成に一貫性がないと指摘し、ペローの行動や設定に説明不足な点があると述べています。また、非現実的な描写が、物語の整合性を損なっているとも指摘しています。しかし、プロキノでの上映が反戦映画として受け入れられたのは、当時の社会的状況や音楽の演出など、上映環境の影響が大きいとしています。

スタッフ

原作・脚色・演出: 田中喜次
字幕: ひら隆三
制作: 童映社

復元版
企画: 伊藤正昭
制作担当: 沼田かずみ
語り: 常田富士男
制作協力: グループ・タック、旧童映社同人（田村潔、柴田五十五郎、中野孝夫、舟木俊一）
プロデューサー: 伊藤正昭
制作: 株式会社シネマ・ワーク

『煙突屋ペロー』は、アマチュアの手によって制作された、反戦のメッセージを込めた、創造性豊かな作品として、今もなお高く評価されています。

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