熊本市電春竹線

熊本市電 春竹線

熊本市電の春竹線（はるたけせん）は、かつて熊本県熊本市に存在した軌道路線の一つです。市の中心部に位置する辛島町停留場から、南熊本駅前停留場までを結んでいましたが、高度経済成長期におけるモータリゼーションの進展などを背景に、1970年（昭和45年）にその運行を終え、廃線となりました。

路線の歴史

春竹線は、昭和初期の1929年（昭和4年）6月20日に最初の区間が開業しました。開業当初は辛島町停留場から春竹までを結んでおり、以下の停留場が設置されました。

辛島町
新鍛冶屋町
本庄町中通（後に本荘中通、代継橋（初代）を経て再び本荘中通）
本庄町
春竹町本通（後に春竹町）
春竹町二ノ井出（後に春竹二ノ井手）
春竹駅前

これらの停留場の中には、後に名称が変更されたり、一度廃止されてから再び設置されたりした場所もあり、路線の歴史の中で変化をたどりました。

主要な歴史的な出来事としては、まず1936年（昭和11年）8月28日に辛島町停留場が一時的に東辛島町と改称されましたが、その後再び辛島町に戻されています。1940年（昭和15年）5月10日には、終点の春竹駅前停留場が南熊本駅前停留場へと改称されました。これは、接続する国鉄の駅名変更に伴うものと考えられます。

太平洋戦争中の1943年（昭和18年）12月28日には、戦時下の交通事情などの影響か、新鍛冶屋町と春竹二ノ井出の両停留場が廃止されました。

戦後、路線の停留場構成にも変化が見られました。1953年（昭和28年）11月9日には、本庄町中通停留場が一度、代継橋（初代）と改称されます。しかし、わずか数年後の1959年（昭和34年）4月1日には、この代継橋停留場は再び本荘中通に戻され、同時にかつての新鍛冶屋町停留場の位置に、新たな代継橋停留場（2代目）が開設されました。また、具体的な年月日は不明ですが、以前廃止された春竹二ノ井出停留場も、春竹新道停留場として復活を果たしています。

このように、開業から廃止までの間に、停留場の名称変更、廃止、復活といった変遷を経て、春竹線は熊本市民の足として機能しました。しかし、時代の流れには逆らえず、1970年（昭和45年）5月1日をもって、辛島町から春竹までの全線が廃止され、40年余りの歴史に幕を閉じました。

電停一覧（廃線当時）

廃線となった1970年当時、春竹線に存在した停留場は全て熊本市内に位置していました。主な停留場と、過去に存在した接続路線は以下の通りです。

南熊本駅前停留場: かつては熊延鉄道との接続駅でした。ただし、熊延鉄道自体も春竹線が廃止されるより前の1964年（昭和39年）3月限りで運行を終了しています。

路線復活計画の検討

春竹線が廃止されてから長い年月が経過しましたが、近年になってそのルートの一部を市電として復活させる構想が浮上しました。

2016年（平成28年）9月、熊本市は市電ネットワークのさらなる拡充を目指し、複数の延伸計画線を検討していました。その中で、春竹線のルートをほぼ踏襲する形で、辛島町からJR南熊本駅までの約1.7kmを結ぶ「南熊本ルート」が検討対象の一つとなりました。このルートは、市電の利便性を向上させ、南熊本エリアへのアクセスを改善する可能性を秘めていました。

しかし、同時期には、健軍線から東区方面へ向かう別の延伸計画、健軍町停留場から東町の第二空港線までを結ぶ約1.5kmの「自衛隊ルート」も候補に挙がっていました。熊本市は、これらの計画線のうち、どちらかを優先的に整備する方針を固め、詳細な検討を進めました。

同年10月に行われた詳細検討の結果、2017年（平成29年）に開催された熊本市公共交通協議会において、最終的に自衛隊ルートが優先整備路線として決定されました。これにより、春竹線ルートの市電としての復活計画は、この時点では実現に至りませんでした。

春竹線は廃止された路線ですが、そのルートは現代においても公共交通ネットワークの検討対象となるなど、熊本市の交通史において重要な位置を占める存在と言えるでしょう。

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