熊谷俊範

熊谷 俊範

熊谷 俊範（くまがい としのり、1947年8月5日 - 2010年3月14日）は、アミューズメント業界で大きな足跡を残した日本の実業家であり発明家です。アミューズメント機器の販売・開発を手掛けるエイブルコーポレーション、そしてゲームセンター運営のシティレジャーを創業しました。また、業界団体である日本アミューズメントマシン協会（JAMMA）の理事や、アミューズメントビジネス研究会（ABSG）の会長を務めるなど、業界の発展と地位向上にも貢献しました。

経歴

生い立ち

1947年（昭和22年）、樺太泊居郡泊居町に、4人兄弟の末子として生まれました。熊谷家は、祖父の代から樺太で林業や漁業の権利を持つ有数の豪商でした。ロシア人の従業員が数百人働くほど事業は栄え、豊かな生活を送っていました。しかし、俊範氏が生まれた頃には終戦を迎えており、樺太在住の日本人は先の見えない状況に置かれていました。一家は全財産を没収され、無一文で北海道函館に引き揚げます。その後、もともと青森県青森市にルーツを持つ熊谷家は、親戚の家を転々としながら納屋での生活を余儀なくされました。

小学校に入学すると、土地に馴染みのないよそ者として激しいいじめに遭います。最初は一方的にやられるだけでしたが、次第に身を守る術、逃げる術、そして反撃する術を身につけ、最終的にいじめを克服しました。この過酷な経験は、後にアミューズメント業界で立場の弱かった販売会社（ディストリビューター）をまとめ、業界初の販社団体「アミューズメントビジネス研究会」を設立するなど、彼らの地位向上に奔走する原動力の一つとなったと言われています。

中学校入学の頃には定住先を見つけ、生活が安定に向かいました。青森山田高校ではバスケットボール部に入部し、顧問の木村隆文氏との出会いが大学進学のきっかけとなりました。

高校卒業後、上京して東洋大学経営学部に入学。池袋のアパートで暮らし、飲食店での皿洗いや出前、深夜の印刷工場でのアルバイトを掛け持ちして学費と生活費を稼ぎました。

大学卒業から創業まで

大学卒業後は、小豆相場を学ぶ目的で共栄物産に入社しますが、実質的な勉強ができず10ヶ月で退職。翌年には英語習得を目指し渡米します。カリフォルニアでレモンの収穫などアルバイトをしながら移民たちと交流した後、ロサンゼルスで英語専門学校に通い、リトル・トーキョーで働きながら英語を学びました。

帰国後、イギリスの染料会社ダイロン・インターナショナルの日本支社に入社。デパートなどで実演販売を行い、大きな成果を上げましたが、歩合率の引き下げにより働く意欲を失いました。

会社創業

染料販売に魅力を感じなくなった俊範氏は、新たな道として義兄が経営するゲーム機販売会社に入社。当時ブームだったインベーダーゲームをクレジット販売するという革新的な方法で販路を拡大しましたが、義兄との意見の相違から独立を決意。1983年（昭和58年）4月、エイブルコーポレーションを設立しました。

エイブル社長として

当初は電子部品などの輸出商社でしたが、2年後にアミューズメント機器の国内販売に進出しました。当時はメーカーから供給される基板にコネクターが付いておらず、ユーザーは別途入手する必要がありました。そこで、コネクターを付けて販売するというサービスを開始し、事業を拡大。さらに、クレーンゲームの景品にぬいぐるみを使うというアイデアを実行し、韓国企業と連携して高品質・低価格なぬいぐるみを供給。1980年代後半には、全国のゲームセンターでぬいぐるみが定番景品となりました。

1990年にはゲームセンター運営会社シティレジャーを設立。1995年には全国850店舗、15000台のマシンを保有する規模に成長させました。

1994年の「ザ・フラッシュ・チャンス」以降は大型機の開発にも注力。「プロボウルシリーズ」「チャンスシリーズ」などの自社開発に加え、「デイトナUSA」「リッジレーサー」といった人気タイトルも販売し、1990年代には年商100億円規模を断続的に記録。ディストリビューターのトップ企業としての地位を確立しました。

業界活動

1994年2月、メーカーに比べて不利な立場にあったディストリビューターの地位向上と情報交換のため、業界初の販社団体であるアミューズメントビジネス研究会（ABSG）を設立し会長に就任。販売網の強化や市場拡大に貢献しました。

1998年5月には日本アミューズメントマシン協会（JAMMA）理事に就任。1999年に起きたAMショーの中古機出展問題では、「拡大流通委員会」を設けて関係者間の議論を促進。消費部会流通委員長として、「中古機販売は必要不可欠」としながらもショーへの中古機出展には反対の立場を表明しました。

多角化と挫折

2003年6月には、音声機能付き歯ブラシ「メロピカ」で物販事業に参入。大手新聞や雑誌で取り上げられ、半期で100万本を出荷するなど成功を収めました。その他にも、アミューズメント業界初の自動おしぼり機や、現代のキッズスペースの原型となる幼児用室内設備なども開発しました。

しかし、2005年8月に開発した製品の生産遅れが資金繰りを悪化させ、経営が下降線をたどります。バブル期の不動産取得や先行投資による借入増加も重なり、銀行の融資停止が決定打となりました。2006年5月、民事再生手続を申請。会社再建を目指しましたが、同年8月に債権者である加賀電子に経営権を売却せざるを得なくなり、エイブルコーポレーション社長としての地位と、開発した製品や販路を含む一切の権利を失いました。

晩年

エイブルが加賀電子の子会社となった後、俊範氏は一切の権利を失った状態から再出発を決意。2007年に株式会社エービーエルを設立しました。唯一取引が残ったマイルストーン社との連携で再び業績を伸ばし始めます。エイブル時代に手掛けたプリントシール機事業のノウハウを活かし、2009年には「アルバムスタジオ」を開発。全国展開による再起に意欲を燃やしていましたが、2010年3月14日、志半ばで死去しました。享年63歳でした。

人物

経営においては少数精鋭主義を徹底し、最盛期でも従業員は30人未満でした。人件費や経費削減のため、営業活動は全て電話で行い、集金も振込のみ。新規顧客は紹介か先方からの申込に限定するという、アメリカ滞在中に見たカタログ販売から着想を得た独自の営業スタイルを貫きました。

エイブルの成功の鍵となったコネクター付随基板販売について、「他は付いていないのが当たり前、エイブルは付いている、注文したらすぐに送る、これが我が社の価値だった」と語っています。また、ディストリビューターとして初めてフィードバックシステムを導入したとも言われています。

顧客や社員を招待したエイブルサンクスツアーでは、自身はエコノミークラスの最後部の席に座ることを常としていました。その理由を「招待客全員を見渡せる特等席」と述べたと言われています。

1994年のインタビューで天職について問われた際、「アミューズメントを天職として幸せだ。日本ドリームを果たせる分野の一つであり、しかも最高のものではないか」と答えており、仕事への深い情熱がうかがえます。

主な特許取得開発製品

• - 個人名義

- 景品自動排出装置
- 音声機能を備えた幼児用歯ブラシ
- 背中にメッシュ部を有するシャツ
- ゲーム用銃

• - 会社名義

- 捕獲ゲーム装置
- 捕獲ゲーム装置のクレーンアーム構造
- 景品吊り下げ装置
- 抽選機の玉出し装置
- ビデオゲーム機筐体用スピーカー付き専用台
- ゲーム装置
- 景品選択ゲーム装置
- 態様変化検知機構を備えた態位可変具
- おまけゲームを付加する遊技機
- ストラップ
- 吊り下げ可能な装飾具
- 選択ゲーム機能付き景品自動排出装置
- キャッチャー装置

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