熊野川 (富山県)

熊野川

熊野川は、富山県富山市内を流れる河川であり、富山県を代表する大河、神通川水系の右岸に合流する重要な支流の一つです。その名称は「くまのがわ」と読みます。

地理

この川は、富山県富山市有峰に位置する西笠山（にしかさやま）の山中に源を発します。流れ出しの地点、すなわち上流端を示す標柱は、富山市河内（こうち）字江崎割地先、通称「和仁口（わにぐち）」に設置されています。

源流から下流へ向かうにつれて、熊野川は高頭山（たかずこやま、標高1,203.3m）の山麓にある三枚滝（さんまいたき）を流れ落ち、その後は概ね北方向へと流れます。富山市文珠寺（もんじゅじ）のあたりで流路を西へと大きく変え、さらに下流の富山市東福沢（ひがしふくざわ）では、主要な支流の一つである黒川（くろかわ）が合流します。多くの水を合わせた熊野川は、最終的に富山市布瀬町（ふせまち）の地で神通川本流に注ぎ込み、その流れを終えます。

主な支流としては、前述の黒川のほか、虫谷川（むしだにがわ）、急滝川（きゅうたきがわ）、大久保川（おおくぼがわ）、樋橋川（といばしがわ）、荒川（あらかわ）などがあります。

歴史と治水

熊野川は古くから、流域の田畑を潤す灌漑用水源として人々の生活を支えてきました。しかし、その一方で、急峻な地形を流れる特性ゆえに、梅雨や台風といった大雨の時期にはしばしば氾濫を起こし、度重なる水害に見舞われてきた歴史を持ちます。

特に、明治時代には大きな被害が記録されています。1910年には、1月から9月にかけて十数回もの増水が発生し、特に9月の豪雨では、富山市内で堤防が244箇所も決壊し、1325戸が浸水するという甚大な被害をもたらしました。また、1912年8月に富山県中部を襲った豪雨では、熊野川の最高水位が3.9メートルに達し、至る所で堤防が決壊しました。この時の被害は上流部から下流部まで広範囲に及び、上流では家屋が流出・浸水し3名の溺死者が出たほか、文珠寺下流の東黒牧や支流の黒川沿いでも、家屋の流出や半壊、床上浸水といった深刻な被害が発生しました。

こうした状況を受け、根本的な治水対策の必要性が高まりました。1913年から1917年にかけては、川幅を広げるなどの改修工事が行われましたが、その後も水害は度々発生しました。最終的に、大規模な治水施設が必要と判断され、1984年には県営としては8番目となる重力式コンクリートダム、熊野川ダムが完成しました。このダムは2億420万立方メートルもの貯水量を誇り、下流地域の洪水調節に大きく貢献しています。

なお、支流の黒川にも、高さ74メートル、貯水量395万立方メートル規模の黒川ダム建設計画が存在しましたが、こちらは2005年に中止が決定されています。

流域の社会と観光

近年、熊野川の上流部山間地域では、人口減少と高齢化が進み、過疎化が顕著となっています。昭和40年代（1965～1974年）には小原（おはら）、隠土（おんど）、赤倉（あかぐら）、手出（ていで）といった集落が、さらに昭和50年代（1975～1984年）には千長原（せんながはら）や河内（こうち）といった集落がその歴史を閉じ、廃村となりました。

流域にはいくつかの見どころや関連事項も存在します。富山市熊野地区には、戦国時代の天文年間（1532～1555年）に築城されたとされる上熊野城跡（かみくまのじょうあと）があります。また、支流黒川の源流の一つである小佐波御前山（おざなみごせんやま）は、標高754.2メートルで、山頂からは西方向に神通川の雄大な流れを望むことができます。この黒川流域に位置する小佐波地区は、古くからミョウガの生産が盛んな地域としても知られています。

また、かつて流域には千野谷黒鉛鉱山（ちのたにこくえんこうざん）がありましたが、1950年代にはこの鉱山の選鉱場から排出された濁水により、下流で鉱害が発生したという歴史的な出来事もありました。

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