熊野川ダム

富山県富山市を流れる一級河川、神通川水系熊野川には、富山県が管理する多目的ダムが建設されています。これが「熊野川ダム」です。その構造は高さ89.0メートルの重力式コンクリートダムであり、下流域における洪水調節、河川環境の維持や農業用水供給といった不特定利水、富山市などへの上水道用水供給、そして水力発電を目的としています。県営ダムとしては、この形式で8番目に造られたダムにあたります。

建設の背景と経緯

熊野川は歴史的に水害が頻繁に発生する河川でした。特に1910年には川筋が大きく変わるほどの洪水が発生し、その後も度重なる河川改修工事や堤防の整備が行われたにもかかわらず、毎年のように水害に見舞われていました。戦後、富山県の中心地である富山市とその周辺地域では、人口増加に伴う将来的な水需要の拡大が見込まれました。これに対応するため、新たな水源を確保すべく熊野川にダムを建設する計画が立てられたのです。

ダム建設に向けた事業は、1966年（昭和41年）に富山県の単独事業として始まり、1969年（昭和44年）まで調査や計画が進められました。その後、1970年（昭和45年）には公共事業として実地調査が行われ、1974年（昭和49年）4月1日には富山市内にダム建設のための事務所が設置されました。同年12月には事務所が大山町（現：富山市）に移転・新築され、いよいよダム本体の工事が着工しました。約10年にわたる建設期間を経て、1984年（昭和59年）6月16日に熊野川ダムは無事完成を迎えました。建設に投じられた総工費は約167億円です。このダムの完成により、貯水池となる地域の下双嶺地区にあった6軒の家屋は、立ち退きを余儀なくされました。

ダムの機能と現状

熊野川ダムが確保する有効貯水容量は760万立方メートルです。この容量は、あらかじめ定められた目的に応じて配分されています。具体的には、上水道用水として420万立方メートル、洪水調節用として220万立方メートル、そして不特定利水用として120万立方メートルがそれぞれ割り当てられています。しかし、ダムが完成してから現在に至るまで、上水道用水として計画された420万立方メートルは一度も利用されたことがありません。これは、ダム建設当初に見込まれたほどには富山市周辺の人口が増加しなかったことが主な理由とされています。この状況から、一部の富山県民からは、ダム建設は必要なかったのではないか、といった疑問の声も上がっています。

一方で、熊野川ダムが完成してからの実績として、熊野川の下流域が洪水による被害から守られてきたという明確な事実があります。この治水効果という側面から見れば、ダムの存在が一概に無駄であったとは言い切れません。また、同じ熊野川の支流である黒川で計画されていた黒川ダムが、付帯道路の整備途中で建設が中止されたという経緯も影響し、富山県では現在、未使用となっている上水道容量を洪水調節などの目的へ振り分ける容量再配分について検討を進めています。これに伴い、ダム中央にある常用洪水吐の位置や寸法の変更も合わせて検討されています。

周辺情報

熊野川ダムへ向かうには、北陸自動車道の富山インターチェンジで下り、国道41号を南へ進みます。下大久保若草町交差点で左折し、富山県道35号立山山田線を進んだ先の花崎交差点で右折、富山県道184号河内花崎線を熊野川に沿って上流へ進むルートが一般的です。ダムの手前にある右カーブ地点からは、正面に熊野川ダムの雄大な姿を望むことができます。貯水池が満水に近い時には、ダム中央部に設けられた3門の自然越流式常用洪水吐から大量の水を一気に放流する様子を見られる機会があります。この洪水吐からの最大放流量は毎秒340立方メートルにも及びます。また、ダムの直下には河川維持に必要な水を常に放流するためのジェットフローゲートが設けられており、少量の水が流れ落ちています。

熊野川ダムの約2.5キロメートル下流には、北陸電力グループの日本海発電が運営する熊野川発電所があります。この発電所では、熊野川ダムから送られる水を利用して最大7,000キロワットの電力を生み出しています。さらに、そこから約3キロメートル下流には、北陸電力の熊野川第二発電所があります。こちらでは、熊野川発電所で使用された放流水を取り入れ、最大430キロワットの小規模ながらも電力を発生させています。熊野川第二発電所を通過した水は、最終的に下流の地域で農業用水として有効活用されています。

もう一度検索