爆薬ラット

爆薬ラット：奇想天外な第二次世界大戦兵器

第二次世界大戦下、イギリス特殊作戦執行部（SOE）は、ドイツ軍に対する驚くべき兵器を開発しました。その名は「爆薬ラット」。その実態は、ラットの死骸にプラスチック爆薬を詰めたもので、一見すると奇想天外な発想ですが、その背景には緻密な戦略と計算がありました。

開発の経緯と目的

1941年、SOEはドイツ国内の重要施設、特にボイラー室を狙った破壊工作を計画します。その標的は、工場や発電所、そして軍事施設です。そこで着目されたのが、ネズミ、特にラットの存在でした。ボイラー室は、ネズミの侵入が容易な場所であり、作業員が死骸を発見した場合、そのまま炉に投入して処分することが想定されました。

そこで、約100匹のネズミを調達し、内臓を取り除いた死骸に、プラスチック爆薬を丁寧に詰め込みました。少量の爆薬でも、高圧のボイラーに穴を開ければ、大規模な爆発を引き起こす可能性があったのです。さらに、遅延信管を使用することで、より効果的な破壊を狙うことも検討されました。ラットの死骸という、一見するとありえない方法で、精密な攻撃を計画したのです。

運用と意外な結果

計画では、爆薬ラットをドイツ国内のボイラー室周辺に大量に散布する予定でした。しかし、最初の輸送分はドイツ軍に発見・回収されてしまいます。この失敗は、作戦全体の頓挫を意味するかに思われました。

しかし、SOEの評価は意外なものでした。ドイツ軍は、この爆薬ラットを軍事学校で展示し、同様の仕掛けがないか、全国的な調査に乗り出しました。この調査によって、ドイツ軍は多大な時間と資源を費やすことになり、他の重要な軍事活動に支障をきたす可能性が出てきたのです。

SOEは、この事態を「彼らが起こされた問題は、実際にラットが使用された場合に比べ、我々にとってより大きな成功といえるものだった」と結論付けました。これは、直接的な破壊工作よりも、敵の警戒心を高め、資源を浪費させることにより、間接的に大きな効果をもたらしたという、独特の戦略的成功と言えるでしょう。

まとめ

爆薬ラット作戦は、一見すると奇抜で非現実的なアイデアですが、その背景には、敵の心理と行動を深く理解した上で立案された、戦略的な思考が見て取れます。直接的な軍事力ではなく、敵の資源と時間を消費させるという、間接的な攻撃手法が成功を収めた、興味深い事例と言えるでしょう。この作戦は、戦時下の創意工夫と、情報戦の重要性を改めて私たちに認識させてくれます。また、成功と失敗の定義が、必ずしも単純なものではないことを示す、優れた事例と言えるでしょう。

もう一度検索