爪形文土器

爪形文土器（つめがたもんどき）

爪形文土器は、縄文時代草創期に作られた土器の一様式であり、その名の通り、人間の爪や様々な工具を用いて土器の表面に爪の形に似た文様をつけたものを指します。この文様は、刺突、押圧、摘み出しといった技法によって施されており、土器の表面に独特の表情を与えています。長野県諏訪市の諏訪湖底曽根遺跡から出土した例があることから、曽根式土器とも呼ばれます。

概要

爪形文土器の最大の特徴は、その表面に施された爪形の文様です。この文様は、人間の爪そのものを使った場合もあれば、ヘラ状や棒状、竹管といった様々な工具を用いた場合もあると考えられています。文様の施し方も多様で、爪で押さえるだけでなく、引っ掻いたり、摘んだりすることで、様々なバリエーションが生み出されています。

爪形文土器は、北海道南部から九州まで、日本列島の広範囲に分布しています。これは、当時の人々の交流や文化の伝播を示すものとして、重要な意味を持っています。

草創期の土器には、爪形文土器の他に、無文土器、豆粒文土器、隆起線文土器、円孔文土器、多縄文土器などがあります。これらの土器がどのような順番で現れたのか、正確なことはまだ分かっていません。しかし、これらの土器は、日本列島における最初の土器群として、まとめて捉えることができます。

研究史

1909年、坪井正五郎は諏訪湖底曽根遺跡で採集した土器を爪形文土器としましたが、当時はまだ類似の土器がほとんど発見されていませんでした。1929年には、この文様は諸磯式土器特有のものとされていました。しかし、1959年に相沢忠洋が西鹿田遺跡で爪形文土器を発見したことで、その位置づけが大きく変わりました。

1960年、山内清男は各地で出土した爪形文土器の文様に共通点があることを指摘し、芹沢長介と鎌木義昌が福井洞穴で爪形文土器の層位的な位置を特定しました。これにより、爪形文土器の編年的な位置が確立されました。

しかし、爪形文土器は出土する資料が少なく、完全な形で復元できるものも限られています。そのため、土器の組成など、まだ解明されていない部分が多く残されており、今後の研究が期待されています。

形状

爪形文土器は、その表面全体に爪形の文様が施されていることが一般的です。形状は、口縁部が水平な深鉢が多いですが、文様の形状や施文方法によって様々な種類があります。

例えば、以下のようなバリエーションが見られます。

幅広で丸みを帯びた爪形文が施されたもの
やや幅広の三日月状の爪形文が施されたもの
幅の狭い三日月状の爪形文が施されたもの
幅広の丸みを帯びた爪形文と幅の狭い三日月状の爪形文が組み合わされたもの
半截竹管による爪形文が施されたもの
爪形文と押圧縄文が組み合わされたもの

このように、爪形文土器は一見すると単純な文様を持つ土器ですが、その内部には多様な要素が詰まっており、縄文時代の文化を理解するための重要な手がかりとなっています。


参考文献
萩谷千明「爪形文系土器」小林達雄編『総覧 縄文土器 小林達雄先生古稀記念企画』アム・プロモーション、2008年 ISBN 978-4944163373
麻生優・白石浩之『縄文土器の知識I 草創・早・前期』東京美術、1986年 ISBN 978-4808703127
麻生優・白石浩之『縄文土器の知識I 草創・早・前期 改訂新版』東京美術、2000年 ISBN 978-4808706791
小林達雄『縄文土器の研究 <普及版>』学生社、2002年 ISBN 978-4311304811
鈴木保彦「草創期の土器型式」加藤晋平・小林達雄・藤本強『縄文文化の研究　第3巻 縄文土器I』雄山閣出版、1982年 ISBN 978-4639001782
中谷治宇二郎著『日本石器時代提要』岡書院、1929年。

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