父の終焉日記

父の終焉日記

『父の終焉日記』は、俳人小林一茶が、父の死に直面した三十余日間を日記形式で綴った作品です。一茶が帰省中に父が急病で亡くなり、その初七日までを記録したもので、父の衰弱していく姿や、遺産問題をきっかけとした継母や弟との確執が、生々しく描かれています。この作品は、事実に基づきながらも、出版を前提に書かれたため、脚色も加えられており、日本の私小説のルーツの一つとも言われています。

作品の成立と伝承

この日記は、一茶の生前に刊行されたものではなく、題名もなかったため、「父終焉の記」、「みとり日記」、「看病手記」、「父の臨終記」など、さまざまな名称で呼ばれていました。現在では、束松露香によって名付けられた「父の終焉日記」が定着しています。

原本は、一茶が寛政12年（1800年）に刊行された歳旦帳の裏面に書いた草稿で、一茶の門人の子孫に伝えられました。現在は、荻原井泉水が表題をつけた折本仕立てに表装され、一茶ゆかりの里、一茶館（長野県高山村）で保存・公開されています。

内容の詳細

日記は、享和元年（1801年）の夏、父弥五兵衛が発病してから、臨終、葬儀、初七日までの三十余日間の記録です。4月23日、農作業中に倒れた父は、26日に隣村の医師によって傷寒と診断されました。29日には、父が一茶と弟仙六を枕元に呼び、財産を半分ずつ分けることを伝えましたが、弟がこれに反対し、兄弟間で争いが起こりました。5月2日には父の病状が急変しましたが、母はほとんど関心を示さず、その状況に一茶は「父ありてあけぼの見たし青田原」という句を詠みました。

この日記には、本文の他に、幼少時代を回想した短い文章「日記別記」と、本文の前後や欄外に書き込まれた雑記類「日記書入」が含まれています。

関連文献

『父の終焉日記』は、多くの研究者によって研究され、様々な形で出版されています。

主な文献として、

荻原井泉水校閲、束松露香校訂『一茶遺稿　父の終焉日記』（岩波書店、1922年）
荻原井泉水校訂『父の終焉日記』（岩波書店、1934年）
前田利治監修『一茶自筆　父の終焉日記　浅黄空　俳諧寺抄録』（勉誠社、1979年）
小林一茶著丸山一彦訳注『父の終焉日記・寛政三年紀行―附現代語訳』（角川文庫、1962年）
小林一茶著黄色瑞華訳『現代語訳 おらが春・父の終焉日記』（高文堂出版、1987年）
小林一茶著『父の終焉日記・おらが春』（岩波文庫、1992年）
矢羽勝幸著『小林一茶ー人と文学ー』（勉誠出版、2004年）
矢羽勝幸監修 『一茶ものがたり　小林一茶と信州高山』（ほおずき書籍、2012年）

などがあります。

外部リンク

* 歴史公園信州高山「一茶ゆかりの里一茶館」：一茶の真筆50点余りを収蔵、公開しています。

『父の終焉日記』は、一茶の人間性と家族関係を深く理解する上で、非常に重要な作品と言えるでしょう。

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