牛ウイルス性下痢

牛ウイルス性下痢

牛ウイルス性下痢（Bovine Viral Diarrhea, BVD）は、牛ウイルス性下痢ウイルス（BVDV）の感染によって引き起こされる牛の疾患です。この病気は、ウシやスイギュウに影響を及ぼし、日本では家畜伝染病予防法により届出伝染病として認識されています。BVDの影響は、特に経済的損失の観点から重要であり、感染した牛1頭あたりの損失は通常10~40ドル程度と推定されています。

病原体の特徴

BVDVはフラビウイルス科に属するRNAウイルスで、主にBVDV-1とBVDV-2の二つの型があります。これらは病原性の違いにより、細胞病原性株と非細胞病原性株に分類されます。病原性のある株は細胞を傷害し、特に症状が重篤化することがあります。一方非病原性株は、持続して感染を引き起こす可能性があるため注意が必要です。

疫学

BVDVは世界中に広がっており、さまざまなウシ科動物に感染します。感染した個体の体から分泌される物質にはウイルスが含まれ、持続感染牛（PI牛）が感染の主要な源となります。これらの牛は免疫寛容を示し、ウイルスに対して反応しません。このような感染の仕組みが、ウイルスの拡散を助長しています。

症状

BVDVの感染が必ずしも目に見える症状を引き起こすわけではなく、多くの場合は不顕性感染となります。ただし、牛がウイルスに感染した場合、発熱や下痢、呼吸器症状のほか、粘膜病や早期胚死滅、流産が見られることもあります。特に妊娠中の牛が感染することで、胎盤を介して胎子にも影響を与えることがあり、胎齢45〜125日の胎児が感染すると、持続感染牛になるリスクがあります。これは、牛の免疫系が発達するのが90〜120日頃であり、それ以前にウイルスに感染すると、免疫システムがウイルスを自己のタンパク質として誤認識するためです。さらに、胎齢100〜150日の胎児が感染すると、内水頭症や脳幹、網膜、視神経の発育不全が起こることもあります。胎齢150日以降の感染では抗体を持つ子牛が産まれます。

また、持続感染牛に対して細胞病原性株が重感染することで、消化器のびらんや潰瘍を伴う粘膜病を引き起こすことがあります。この病気は急性や慢性の経過を掃くことがあり、致死率は非常に高いです。

診断

BVDの診断には、ウイルスの分離と同定が必要です。しかし、3ヶ月未満の仔牛では移行抗体の影響により、感染が陰性と判定されることがあります。RT-PCRも診断に用いる手法として一般的です。

治療と予防

特別な治療法は存在せず、対症療法が行われます。持続感染牛は早期に除去することが、その蔓延を防ぐために効果的です。BVDV-1に対する生ワクチンはありますが、BVDV-2に対する効果は弱いため、予防策は限られています。持続感染牛の殺処分は、流行の防止に不可欠です。

まとめ

牛ウイルス性下痢は、経済的損失だけでなく、動物の健康にも重大な影響を与える恐れがあります。このため、農業従事者や獣医療関係者は、早急な感染診断や効果的な対策を講じる必要があります。

もう一度検索