牛頸ダム

福岡県大野城市に位置する、二級河川御笠川水系牛頸川に建設された県管理のロックフィルダムです。堤高は52.7メートル。このダムは、主に牛頸川および御笠川下流の洪水被害を抑制すること、そして生活排水などの流入により悪化した御笠川の水質を改善することを目的としています。国庫からの補助を受けて建設されたことから、「補助治水ダム」に位置づけられます。市街地に比較的近い立地が特徴的です。ダムによって形成された人造湖は「大野貯水池」と呼ばれています。

建設の背景

ダムが建設された御笠川流域は、県都・福岡市をはじめとする福岡都市圏の中心にあり、人口が密集し急速に宅地化が進んでいます。主要な交通網も集中する、非常に開発が進んだ地域です。この水系は古くから水害が頻発しており、特に1973年（昭和48年）7月には集中豪雨により流域に甚大な被害が発生しました。そのため、河川改修が急務となりましたが、すでに市街化が進んでいたため、従来の河川工事は用地買収が難航し、十分な改修が進められない状況でした。

さらに、元々流量が少ない御笠川は、農業用水の取水量増加により渇水期には水量が極めて少なくなり、1967年（昭和42年）には河川が枯渇するという深刻な事態も招いています。加えて、都市化の進行に伴い生活排水の流入が増加し、水量の少ない川は短期間のうちに汚濁が進み、悪臭を放つようになりました。

ダム計画と建設

これらの治水および利水、環境に関する問題を根本的に解決するため、福岡県は河川総合開発事業の一環として、御笠川の主要な支流である牛頸川にダムを建設する計画を策定しました。これにより、洪水を調整し、年間を通じて河川に一定の水量を確保することで、諸問題の解決を目指しました。

こうして1970年（昭和45年）に「御笠川総合開発事業」の一環として牛頸ダムの建設計画が具体化し、1972年（昭和47年）に事業が開始されました。ダム建設地には5戸の住民が生活しており、移転に伴う補償交渉が慎重に進められました。交渉がまとまった後の1976年（昭和51年）から本体の建設工事が始まり、計画から完成まで約21年の歳月を経て、1991年（平成3年）に牛頸ダムは竣工しました。

ダムの諸元と目的

牛頸ダムは、堤体の中心部に粘土質の遮水材を配置した、高さ52.7メートルのロックフィルダムです。ダムの基礎となる岩盤には、建設時の記念として礎石が埋設されています。ダム湖の正式名称は「大野貯水池」であり、特に通称はありません。

ダムの主な目的は以下の通りです。

洪水調節: 洪水時にダム湖に水を一時的に貯留し、下流への流量を抑制します。
既得取水の安定化: 御笠川から古くから取水している権利者が必要とする水量を供給します。
* 河川環境の維持（不特定利水）: 年間を通じて御笠川に一定量の水を流し、水質悪化を抑制し、良好な河川環境を保全します。

これらの目的のうち、洪水調節と河川環境の維持はまとめて「治水」の目的に含まれます。牛頸ダムは治水目的のみを持つダムであり、「治水ダム」と呼ばれます。特に、国からの補助を受けて都道府県が建設した治水ダムであることから、「補助治水ダム」に分類されます。この補助治水ダム制度は1972年（昭和47年）に制定され、牛頸ダムは福岡県がこの制度を活用して建設した最初のダムの一つです。

周辺環境と活用

牛頸ダム周辺は豊かな自然が残されており、特に夏季にはホタル（ゲンジボタル）が観賞できる名所として知られています。

ダム湖周辺には、大野城市が整備した「大野城いこいの森」が広がっています。これは、中央公園、スポーツ公園、水辺公園、キャンプ場などの施設を含む広大なレクリエーション区域の総称で、夏季には多くの人々で賑わいます。ダム北側の牛頸川西岸にある「ホタルの里」では、毎年5月下旬から6月にかけて、大野城市主催のホタル観賞イベントが開催されています。

また、ダムから数百メートル離れた場所には、市が運営する「牛頸ダム記念館」があり、地域のコミュニティ活動やダムに関する展示などが行われています。ダム南側の水辺公園近くには、真言宗善通寺派の寺院「牛頸山法照寺」があり、その東側の雑木林の中には小さな「山の神」の祠がひっそりと祀られています。

周辺には、同じ御笠川水系に大佐野ダム（太宰府市）が、牛頸山を越えた向こうには山神ダム（山口川）があります。山神ダムはロックフィルダムと重力式コンクリートダムを組み合わせた珍しい形式のダムです。

アクセス情報

公共交通機関を利用する場合、西鉄天神大牟田線下大利駅から西鉄バスで「南山手四角」または「平野ハイツ入口」停留所まで乗車し、それぞれ下車後徒歩約15分程度です。自動車の場合は、九州自動車道太宰府インターチェンジから約6.5kmの距離にあります。ダムには駐車場も完備されています。

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