牧野忠寛

越後長岡藩第8代藩主 牧野忠寛：複雑な出自と波瀾の生涯

牧野忠寛は、越後長岡藩を治めた第8代藩主であり、長岡藩系牧野家宗家の9代当主です。その生涯は、複雑な出自と藩政における数々の出来事、そして近年明らかになった遺骨調査の結果によって、より深く理解できるようになりました。

出自の謎：家譜と異なる真実

公式記録である『寛政重修諸家譜』や『続藩翰譜』、牧野家の公式記録「御家譜」では、忠寛は牧野貞通の子として記されています。しかし、牧野家家譜を補足する「御附録」によると、忠寛は寛保元年（1741年）、牧野忠周と側室大原氏との間に生まれた長子でした。既に忠敬が後継者として指名されていたため、東彦松と名乗り、牧野姓は後に賜りました。幕府への届け出では、笠間藩主・牧野貞通の十男と偽装され、長岡藩主の座を継承するための策略の一部だったと考えられています。この系図の改竄は、長岡藩への迎え入れをスムーズに進めるための処置だったとされています。近年行われた遺骨調査では、骨格形状が忠周の系統と酷似していることが判明し、「御附録」の記述の信憑性を裏付ける結果となりました。

藩政：災害と改革

藩主となった忠寛は、数々の災害に見舞われました。宝暦6年（1756年）の大飢饉、宝暦7年（1757年）から8年（1758年）にかけての大水害など、民衆の生活は大きな打撃を受けました。「お救いの粥」の配給や被災民への新田地分譲など、災害救済に尽力する一方で、藩政改革にも取り組みました。宝暦12年（1762年）には、藩士に対する法典「諸士法制」の改訂増補を行い、藩の統治体制強化を図りました。芸術の振興にも力を入れ、諸芸術師範役を設けるなど文化面にも貢献しました。

病死とその後

明和元年（1764年）から病に臥し、江戸城への登城を控えざるを得なくなりました。そして明和3年（1766年）、26歳という若さで亡くなりました。跡を6歳の長男・忠精が継ぎました。忠寛の墓所は、当初東京都港区三田の済海寺でしたが、後に新潟県長岡市の悠久山に移されました。

人物像：遺骨調査からわかること

1982年の済海寺からの牧野家墓地改葬の際に行われた遺骨調査では、忠寛の身長が162.3cmから161.4cmと推定されました。また、笠間藩牧野家の公式記録『笠間家譜』では、忠寛に関する記述が簡素であることが指摘されています。これは、公式的には兄とされる忠敬や忠利と比較した際の扱い方の違いとして注目されています。

系譜

実父: 牧野忠周
実母: 大原氏
養父: 牧野貞通、牧野忠利
養母: 佐藤氏
正室: 長姫（大岡忠光の娘）
子女: 牧野忠精（長男）、有馬氏保（次男）、その他2男3女

参考文献

済海寺遺跡調査団（鈴木公雄）『港区三田済海寺　長岡藩主牧野家墓所発掘調査報告書』（東京都港区教育委員会、1986年）
『長岡市史』（北越新報社、1931年）

牧野忠寛の生涯は、複雑な出自、災害と戦いながら進めた藩政、そして近年明らかになった遺骨調査の結果など、様々な要素が絡み合い、興味深い歴史の一端を垣間見せてくれます。彼の功績と、その生涯にまつわる謎は、これからも研究者たちを魅了し続けることでしょう。

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