特三号戦車

特三号戦車 クロ

特三号戦車クロ（とくさんごうせんしゃ クロ）は、大日本帝国陸軍が太平洋戦争中に計画した空挺戦車です。この車両の試作名称はク6であり、当時の戦術の変化に対応しようとする試みの一環でした。特三号戦車は、軽量化と空中輸送を考慮して設計されており、さまざまな特長を備えています。

特徴

特三号戦車は、九八式軽戦車を基にし、乗員を2名に削減することで軽量化されています。ガソリンエンジンを搭載し、車両の総重量は2.9トンに軽減されました。さらに、全幅22メートルの主翼を装備することで、空中での滑空が可能となりました。九七式重爆撃機などに曳航され、目標上空で切り離された後、滑空して地上に着陸します。着陸後は翼を取り外し、通常の戦車として運用されます。

この戦車の離陸や着陸には特殊なソリを使用する必要があり、履帯の摩擦抵抗が問題となったため、これらの工夫が施されました。主な武装としては、一〇〇式三十七粍戦車砲が計画されていましたが、火炎放射器への変換も検討されていました。

歴史

特三号戦車の開発の背景には、日本陸軍が以前から行っていた滑空機の研究が影響しています。支那事変発生時にはその研究が中断されましたが、欧州戦場における滑空機の活躍を踏まえて研究が再開され、空挺部隊の強化が図られました。特に「ク1」や「ク6」といった兵員輸送用の滑空機の開発が行われ、特三号戦車もその成果の一部として位置付けられます。

1943年（昭和18年）秋、日本陸軍に初の軍用グライダー「滑空歩兵連隊」が編成されました。この部隊は、武装として山砲を輸送する能力を有しており、強力な火力を誇るものでした。しかし、より重く、機動性の高い戦車を輸送することはグライダーでは難しく、1944年（昭和19年）には軽戦車の開発へとシフトしました。航空本部や機甲本部、第四技術研究所の協力を得て、九八式軽戦車を元にした滑空可能な戦車の開発を始めます。

主翼の設計は前田航研工業が行い、車体の開発は三菱重工業が担当しました。しかし、滑空中の操縦は非常に困難であり、制空権を失っている状況での曳航機は攻撃のリスクにさらされることが多かったため、開発は不安定でした。最終的には、一部の意見に従い、より実用的な兵器の開発に集中することが望まれ、特三号戦車のプロジェクトは途中で頓挫しました。

参考文献

• - 木俣滋郎『幻の秘密兵器 恐るべき先駆的技術の集大成』廣済堂出版 1977年
• - 佐原晃『日本陸軍の試作・計画機 1943〜1945』イカロス出版、2006年
• - 防衛庁防衛研修所戦史室『戦史叢書第087巻 陸軍航空兵器の開発・生産・補給』朝雲新聞社、1975年

特三号戦車の計画は、日本の戦争技術を象徴する一例であり、当時の軍事戦略の変遷を示しています。未完のまま終わったこの戦車の物語は、戦争の厳しさと技術への挑戦を思い起こさせるものです。

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