犬山頭首工ライン大橋

愛知県犬山市と岐阜県各務原市鵜沼小伊木町の間で、雄大な木曽川に架かる重要な構造物が「犬山頭首工ライン大橋」です。一般には、その通称である「ライン大橋」として広く知られています。この構造物は単に両岸を結ぶ橋としてだけでなく、広大な農地を潤す濃尾用水へ安定して水を供給するための取水施設、すなわち頭首工としての役割も担っています。

名称の由来

「ライン大橋」という名称は、この付近の木曽川が、ドイツのライン川の景観にたとえられ「日本ライン」と呼ばれることに由来しています。地域の美しい自然景観にちなんで名付けられたものと言えるでしょう。

地域を支えた歴史的背景

この地域における水利用の歴史は古く、江戸時代に遡ります。尾張藩が築いた御囲堤によって木曽川の支川が失われた結果、農業用水の確保が困難になった住民は、木曽川本流からの取水路建設を始めました。江戸時代初期には尾張国側で宮田用水と木津用水が、昭和時代初期には岐阜県側で羽島用水がそれぞれ整備されました。

しかし、自然の流れに頼った取水では、洪水や河川の流路の変化によって安定した水の供給が難しく、水を巡る争いも頻繁に発生しました。この長年の課題を根本的に解決するため、国は1957年（昭和32年）から約10年の歳月をかけ、羽島、宮田、木津の三つの主要な用水路の取水口を集約し、より計画的かつ安定的に水を供給するための「犬山頭首工」の建設に着手しました。この堰堤に併設される形で橋が架けられたのは、当時、名鉄電車の軌道と道路が併用され慢性的な渋滞が発生していた隣の犬山橋の迂回路として、地域の交通混雑を緩和する目的もありました。

完成から長い年月が経過し、構造物の老朽化が進んでいることから、現在では数年にわたる大規模な改修工事が段階的に行われています。

構造と機能

犬山頭首工ライン大橋は、大きく分けて橋梁部と頭首工（堰）部から構成されています。

橋梁部は二つの異なる役割を持つ部分があります。

車道（操作橋）: 堰の操作や管理のための橋として建設され、1968年（昭和43年）に供用が開始されました。延長は約420メートル、幅員は6メートルです。交通量が増加した現在では、一般車両も通行可能な迂回路として機能していますが、重量制限5.5トン（大型車通行禁止）が設けられています。岐阜県側では県道95号（芋島鵜沼線）と接続しています。
歩道（管理橋）: 主に頭首工の管理のために設けられた橋で、2007年（平成19年）1月に完成しました。同年6月18日からは歩行者専用道路として一般に開放されています。延長は約422メートル、幅員は3メートルで、散策やジョギングなどに利用されています。

頭首工本体は、木曽川の水位を調整し、濃尾用水への取水量を制御するための重要な施設です。

可動堰: 6門設置されており、扉を動かすことで川の水位を調整します。
土砂吐: 2門あり、洪水時などに流れてくる土砂を下流に流す役割を担います。
魚道: 2門設けられており、魚が遡上できるように配慮されています。
舟通: 1門あり、管理用の舟などが堰を通過できるようになっています。
取入樋門: 濃尾用水へ水を取り込むための門で、左岸に3門、右岸に1門が設置されています。ここで取水された水が、岐阜・愛知両県の広大な農地へと送られます。

現在、ライン大橋の車道部分は各務原市の市道（市道鵜328号線）に指定されており、地域の交通網の一部としても重要な役割を果たしています。

所在地

北岸: 岐阜県各務原市鵜沼小伊木町
* 南岸: 愛知県犬山市大字犬山

犬山頭首工ライン大橋は、地域の農業に不可欠な水供給施設と、交通網の一部という二つの側面を持ち、この地域の発展と人々の暮らしを長年にわたり支え続けている構造物です。

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