犬糸状虫

犬糸状虫について

犬糸状虫（いぬしじょうちゅう、学名：Dirofilaria immitis）は、フィラリアの一種であり、主に蚊を媒介として感染が広がる寄生性の線虫です。この寄生虫は、犬を終宿主としており、猫やイタチ、アシカ、さらには稀なケースとして人にも感染します。この感染症は一般に犬糸状虫症または犬フィラリア症と呼ばれています。

形態

犬糸状虫は、成虫の体が細長くて乳白色をしており、オスとメスで体の大きさに明確な違いがあります。メスの体長は25から30センチメートル、幅は約1.5ミリメートルであり、オスは12から20センチメートル、幅は約1ミリメートルです。また、成虫は頭部と尾部に特徴的な構造を持ち、特にオスの尾部は螺旋状に巻かれています。寄生虫はミクロフィラリアと呼ばれる第1期幼虫を産出しますが、これらは体長が約300マイクロメートルで、非常に小さいのが特徴です。

生態

この寄生虫は、犬を終宿主として、蚊が中間宿主となる生態系に属しています。主な終宿主は、犬のほかにも猫やオオカミ、コヨーテなどの野生動物です。また、日本では特にアカイエカが重要な媒介者とされています。犬糸状虫は主に心臓の右心室や肺動脈に寄生しますので、心臓病の原因ともなります。

生活環

雌の犬糸状虫は、体内で卵胎生で第1期幼虫を産出します。この幼虫は消化管が未発達であるため、ミクロフィラリアとして知られています。血液中を循環するミクロフィラリアは、蚊に吸血されることで次のステップに進むことができ、最大2年も待機することが可能です。

蚊に吸血されると、ミクロフィラリアは約24時間以内にマルピーギ管に移行し、8から10日後に第2期幼虫へと変態します。さらに約3日後には感染性の第3期幼虫となり、蚊の吸血時に吻鞘部から宿主の皮膚に移動します。その後皮下で数日過ごし、続けて筋肉に移動します。最終的に、感染から50日から70日後に未成熟な成虫へと成長し、心臓に寄生します。感染から6ヶ月から9ヶ月後には、成熟した雌が再びミクロフィラリアを産むようになります。

分布

犬糸状虫は、熱帯から温帯にかけて幅広く分布しており、特に北アメリカにおいては高い感染率が確認されています。アラスカでも症例が報告されており、特にテキサスからニュージャージーにかけての地域やミシシッピ川流域が感染率が高いです。さらに南アメリカ、南欧、東南アジア、中東などにも感染が広がっています。

ボルバキアとの共生

犬糸状虫は、細胞内で共生するバクテリア、ボルバキア（Wolbachia pipientis）を宿主としています。このバクテリアは、幼虫や成虫に見られ、犬糸状虫の成長や脱皮に大きく寄与していると考えられています。

歴史

犬糸状虫の最初の文献上の記録は1626年に遡り、イタリアの貴族が狩猟犬の心臓でこの寄生虫を発見したことが記されています。その後、1892年には蚊の体内でミクロフィラリアが見つかり、1900年には蚊が中間宿主であることが実証されました。この寄生虫の研究は、現在も進行中であり、新たな発見が期待されています。知識として、犬糸状虫の理解を深め、大切なペットを守るためにも、感染症に関する適切な知識を持つことが不可欠です。

もう一度検索