狩野益信

狩野益信：探幽の養子、駿河台狩野家の祖

狩野益信（1625年 - 1694年）は、江戸時代前期に活躍した狩野派の絵師であり、江戸狩野の中でも重要な位置を占める駿河台狩野家の祖です。幼名は山三郎、通称は采女、号は洞雲・宗深道人・松蔭子など多数あります。

生涯

益信は、彫金家・後藤勘兵衛家の後藤立乗の長男として生まれました。幼少の頃から書を松花堂昭乗に学び、絵を好んだことが、彼の人生を大きく変えるきっかけとなります。その画才を見出され、11歳で狩野探幽の養子となりました。後藤家と狩野家は、共に幕府の御用を務める関係であり、日蓮宗の信仰も共有するなど、古くからの繋がりがありました。

探幽の弟である狩野安信に可愛がられ、その娘を妻に迎え、3代将軍徳川家光にも寵愛されました。しかし、探幽に実子の探信・探雪が生まれると、万治2年（1659年）に別家することになります。南光坊天海の紹介で寛文7年（1667年）に駿河台に屋敷を拝領し、駿河台狩野家を興しました。天和2年（1682年）には、他の表絵師よりも高い格式を得て、狩野派内での地位を確立しました。

承応・寛文年間の京都御所造営に伴う障壁画制作にも参加しましたが、結婚・養子縁組を通じて探幽・安信兄弟と繋がりができた益信と狩野常信は、この仕事を通じて狩野派内部での序列が入れ替わることがありました。寛文5年（1665年）には、隠元隆琦から絵を絶賛され、「洞雲」の号を与えられました。晩年には湯島聖堂に「七十二賢及先儒ノ像」を描き、住吉具慶、北村季吟らと共に法眼に叙されました。

元禄7年（1694年）に70歳で没し、跡目は養子である狩野福信（洞春）が継ぎました。弟子には、小原慶山、佐久間洞巖、清水洞郁、増井貞三などがいます。

養子としての苦悩

益信は生真面目な性格であったため、探幽の養子として、その偉大な才能の跡を継ぐことに苦悩していた様子が史料に残っています。大徳寺の僧、春沢宗晃の『昂隠集』には、益信が隠元に「画業において肝心なことは何か」と尋ねた際、「無心に描けばよい」と言われたものの、その意味が理解できずに春沢に教えを請うたというエピソードが記されています。

春沢は、「一心は二つの働きをすることはできない。龍を描くときには、心すべてが龍そのものでなければならない」と説き、無心で描くことの重要性を説きました。このエピソードは、益信が探幽の画風を模範とする一方で、独自の境地を切り開くことに苦心していたことを示唆しています。

また、若い頃に久隅守景の息子と悪所通いをしていたという逸話も残っており、探幽との画力の差に悩んでいたことがうかがえます。益信の画技は、探幽様式をよく学び、堅実で丁寧なものでしたが、その反面、画面に生気が乏しく、硬直化しているという評価もありました。

代表作

（代表作に関する情報は、現状の資料からは抽出できませんでした。）

まとめ

狩野益信は、狩野派の絵師として確かな地位を築きながらも、探幽の養子としての重圧や、独自の画風を確立することへの苦悩を抱えていました。彼の作品は、その生真面目な性格を反映して、堅実で丁寧な仕上がりとなっています。駿河台狩野家の祖として、後世に大きな影響を与えた人物です。

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