隠元隆琦

隠元隆琦（いんげん りゅうき）

隠元隆琦は、大光普照国師などの諡号を持つ、明末清初の中国の禅僧です。江戸時代初期に来日し、日本における黄檗宗の開祖となりました。俗姓は林氏で、福建省福州府福清県の出身です。

生涯

隠元は、臨済正宗を自称していましたが、その禅風は当時の中国の禅宗の特徴である「禅浄双修」や「禅密双修」を取り入れたものでした。彼は、道者超元とともに、当時の禅宗界に大きな影響を与え、江戸時代の臨済宗や曹洞宗の戒律復興運動にも貢献しました。

また、明代の書をはじめとする中国文化を日本に伝え、隠元豆（インゲンマメ）の名前の由来ともなりました。さらに、京都の宇治に煎茶の製法と喫し方を伝え、煎茶道の開祖ともされています。普茶料理と呼ばれる精進料理を広めたことでも知られています。能書家としても名を馳せ、木庵性瑫、即非如一とともに「黄檗の三筆」と称され、隠元の影響を受けた文化は「黄檗文化」と総称されています。

生い立ちから来日まで

万暦20年（1592年）に福建省福州府福清県で生まれた隠元は、幼少期に父親が行方不明となるという経験をしました。10歳で仏教に興味を持ちましたが、母親の反対で出家は許されませんでした。20歳の時、結婚を勧められるも、父親を探すことを優先し、23歳の時に普陀山で奉仕活動を始めました。28歳で母親が亡くなると、黄檗山の僧侶に勧められて出家を決意し、29歳で黄檗山萬福寺にて得度しました。その後、密雲円悟に師事し、35歳で印可を受けました。45歳で費隠通容から嗣法し、その後、黄檗山の住持を2度務めました。

来日以降

長崎の崇福寺の住持が空席になったことをきっかけに、興福寺の住持であった逸然性融の招きで日本へ渡ることになりました。当初は弟子の派遣を試みましたが、失敗に終わりました。度重なる招請を受け、1654年に20人以上の弟子を連れて長崎に到着しました。興福寺には、隠元の禅風と人徳を慕う多くの僧侶や学者が集まり、大変な賑わいを見せました。その後、崇福寺に移り、龍渓性潜の懇請で普門寺の住持になりますが、幕府によって行動を制限されました。隠元の帰国を望まない声が多く、幕府将軍徳川家綱との会見を経て、1660年に寺地を与えられ、翌年に萬福寺を建立しました。1663年には、完成した法堂で祝国開堂を行い、日本初の授戒会「黄檗三壇戒会」を厳修しました。

黄檗宗開教以降

隠元は、臨済宗を嗣法しているという自負がありましたが、その禅風は日本の臨済宗とは異なっていたため、結果的に黄檗宗という一派を形成することになりました。『黄檗清規』は、当時の禅宗各派の改革に大きな影響を与え、特に曹洞宗の改革で重要な手本となりました。後水尾法皇をはじめ、皇族や幕府要人、多くの商人たちが隠元に帰依しました。萬福寺の住職を3年務めた後、松隠堂に退隠し、82歳で亡くなりました。

国師号・大師号

没後、後水尾法皇から「大光普照国師」の諡号を賜り、その後も50年ごとの遠忌に皇室から諡号が贈られる慣例となりました。霊元上皇より「仏慈広鑑国師」、後桜町上皇より「径山首出国師」、光格上皇より「覚性円明国師」の諡号が贈られ、明治時代には一時中断しましたが、大正天皇より「真空大師」、昭和天皇より「華光大師」、令和4年には今上天皇より「厳統大師」の諡号が贈られました。

語録・著作

隠元は多くの著作を残しており、代表的なものに『隠元禅師語録』、『普照国師広録』、『黄檗隠元禅師雲涛集』、『黄檗清規』などがあります。

弟子

隠元の嗣法者は23名おり、その中には木庵性瑫、即非如一、慧林性機などの日本人も含まれています。

隠元豆

隠元が日本に持ち込んだとされるインゲンマメは、中南米原産の作物です。ただし、隠元が持ち込んだのはフジマメであるという説もあります。

関連事項

萬福寺
福州語
篆刻
三筆
* 准胝観音

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