独身のスキャット

『独身のスキャット』：円谷プロの挑戦と昭和の世相を映すコメディドラマ

1970年、TBS系列にて放送されたテレビドラマ『独身のスキャット』は、全11話からなる社会派コメディです。円谷プロダクションがそれまで得意としていた特撮作品とは一線を画し、SF要素を排した一般向けドラマ制作への本格的な進出を象徴する作品として知られています。

このドラマは、TBSを退社した円谷一が円谷プロの代表に就任後、最初に手がけたプロデュース作品という点でも特筆に値します。放送枠は、円谷一がTBS退社時に譲り受けたものだったと言われています。監督や脚本陣には、円谷プロ初参加の面々が多数参加しており、新しい風を吹き込んだ作品となっています。また、特撮の巨匠、円谷英二が監修を務めた最後の作品という事実も、このドラマに重みを与えています。

企画は、円谷プロ企画室に所属していた田口成光によって立案されました。円谷一からの「スポンサーは資生堂一社、何かやりたいことはないか？」という問いかけに、田口は「ニューヨーク喜劇のようなものを」と提案。祖師谷の喫茶店でわずか4時間で書き上げた企画案『ああ独身』が、本作の出発点となりました。当初、主演がなべおさみと決定した際には、田口は若干の落胆を示したという逸話も残っています。最終的に採用されたタイトル『独身のスキャット』は、当時流行していた楽曲「夜明けのスキャット」に着想を得て命名されたものです。

ドラマの内容は、平凡なサラリーマンである村上貫一（なべおさみ）が、経済的な事情から自身のマンションの部屋を夜間に貸し出すという、少々変わった商売を始めるという物語です。分不相応な高級マンションでの生活と、そのローン返済に苦しむ貫一の日常、そして、彼を取り巻く個性的な人々との交流が、コミカルかつシニカルに描かれています。毎回登場する多彩なゲスト、健康的なお色気シーン、そして当時の世相を反映した風刺も特徴です。映画『アパートの鍵貸します』に影響を受けたという説もあるように、現代社会の矛盾や人間の弱さをユーモラスに表現した作品と言えます。

制作面においても、特撮を主体とはしていないものの、ワイプなどにオプチカル・プリンターが活用されるなど、円谷プロの技術がさりげなく活かされています。オープニングの寸劇はプロデューサーの河島治之が演出、第9話の監督も務めたとされていますが、プロデューサーが監督を兼務するのは適切ではないという意見があり、クレジットは満田かずほとなっています。しかし満田自身は、現場で監督補佐として携わっていたため、クレジットに異議はないと語っています。また、スポンサーであるプラチナ萬年筆からの要望により、競合他社を連想させるような、飛行機乗りや船乗りといったキャラクターは登場させないように配慮されている点も興味深いところです。

『独身のスキャット』は、2013年に東映ビデオからDVD-BOXが発売され、初めてソフト化されました。しかし、第2話から第4話の音声素材が円谷プロでも行方不明となっており、DVD-BOXには映像のみが収録されています。この貴重な映像資料は、昭和のテレビドラマ史における重要な一端を垣間見せてくれます。

『独身のスキャット』は、単なるコメディドラマとしてだけでなく、円谷プロの新たな挑戦、昭和の世相の縮図、そして円谷英二の遺志が込められた作品として、高く評価されるべきドラマと言えるでしょう。 特撮作品とは異なる魅力を持つこの作品は、現代においても多くの視聴者の心を掴む、時代を超えた名作として語り継がれています。

もう一度検索