猪俣勝人

猪俣勝人（いのまた かつひと）

猪俣勝人（1911年6月27日 - 1979年8月7日）は、昭和期の日本映画界において、脚本家、映画監督、そして映画評論家として重要な足跡を残した人物です。東京府（現在の東京都）で生まれ、その才能は多岐にわたりました。

生涯

猪俣勝人は、厳格な家庭環境で育ちました。父親は検事であり、転勤が多かったため、幼少期から長野、東京、千葉、新潟、福岡と各地を転々としました。少年時代は学業よりも文学に親しみ、中学時代から小説の懸賞に応募するも、入選は果たせませんでした。

日本大学芸術学部を卒業後、『九州日報』の短編小説募集で一等に入賞したことをきっかけに、1934年、松竹蒲田撮影所にシナリオ・ライターの研究生として入社しました。当初は苦労したものの、清水宏監督の作品の口述筆記を手伝ったことが転機となり、『君にささぐ花束』『雨の夜の抱擁』などの作品で脚本家としての才能を開花させました。

しかし、当時の映画界では、オリジナル脚本の評価は低く、猪俣は次第に幻滅を覚えるようになり、1942年に松竹を退社しました。その後、脚本家の地位向上を目指し国民脚本社を創立、戦後にはシナリオ文芸協会を設立し、雑誌『シナリオ文芸』を創刊するなど、後進の育成に尽力しました。

1950年代に入ると、佐分利信監督とのコンビで『執行猶予』『あゝ青春』『風雪二十年』などの作品を手掛け、脚本家としての評価を確立しました。また、渋谷実監督の『現代人』は、猪俣の代表作として知られています。

その後、猪俣は監督業にも進出し、1958年に『荒城の月』で監督デビューを果たしました。1959年には、BOACスチュワーデス殺人事件を題材にした『白か黒か』を発表しましたが、カトリック教会からの批判を受け、短期間での公開終了となりました。

晩年は、テレビドラマの脚本執筆や、母校である日本大学芸術学部で教鞭を執るなど、後進の育成に力を注ぎました。映画評論家としても知られ、多数の著書を執筆しました。

主な作品

脚本

こころ（市川崑監督）
火の鳥（井上梅次監督）
青色革命
慟哭（佐分利信監督）
大東京誕生 大江戸の鐘（大曽根辰保監督）

監督

荒城の月
白か黒か

著書

世界映画名作全史シリーズ（戦前編、戦後編、現代編）
日本映画名作全史シリーズ（戦前編、戦後編、現代編）
黄金期の日本映画100選

人物

猪俣勝人は、映画に対する深い愛情と、脚本家の地位向上への強い意志を持った人物でした。その多岐にわたる活動は、日本映画界の発展に大きく貢献しました。従弟には映画評論家の田山力哉がおり、共同で著書を執筆しています。

関連項目

田山力哉
尾崎亜美
* 小林恒夫

もう一度検索