猪熊兼勝

猪熊 兼勝

日本の考古学者であり、特に古墳時代から飛鳥時代にかけての墓制研究を専門としています。京都橘大学名誉教授の称号を持ち、また京都の歴史と深く結びついた伝統行事である葵祭や時代祭に関わる要職も務めています。

経歴と研究活動

京都市に生まれ、古都の歴史的環境の中で育ちました。猪熊家はかつて猪熊通に居住していましたが、応仁の乱でその居を追われたと伝えられています。京都府立鴨沂高等学校を経て、関西大学文学部史学科で歴史学を学び、同大学院文学研究科考古学専攻で修士課程を修了し、文学修士の学位を取得しました。

大学院修了後、奈良国立文化財研究所に入所。埋蔵文化財センター研究指導部長などを歴任し、1997年には飛鳥藤原宮跡発掘調査部の部長に就任するなど、長年にわたり日本の重要な遺跡調査研究に携わりました。1998年からは京都橘大学文学部教授として後進の指導にあたり、後に名誉教授となります。

主な業績

猪熊氏の研究活動の中でも特筆されるのは、飛鳥時代の墓制に関する深い知見と、高松塚古墳の保存への貢献です。

1972年に奈良県明日香村の高松塚古墳で極彩色の壁画が発見された際、奈良国立文化財研究所に所属していた猪熊氏は、その保存管理の責任者の一人として重要な役割を担いました。後に国宝に指定されたこの壁画古墳において、彼は数十年にわたり施設の鍵を管理するなど、その保全に尽力しました。2004年に壁画の劣化が問題となった際には、解体後の壁画の加筆修復や、発見当時の姿の復元、そして諸外国の事例を参考に最適な公開方法を提言するなど、その後の保存修復方針に大きな影響を与えました。

また、飛鳥時代の謎多き巨石遺構に関する学説も提唱しています。1978年に神部四郎次氏が示した益田岩船を横口式石槨とする説を発展させ、益田岩船や大阪府寝屋川市にある石宝殿古墳といった例が、牽牛子塚古墳の石室完成に至るまでの試行錯誤の過程で造られた遺構であると論じました。軟質な凝灰岩を用いた牽牛子塚古墳の石室こそが、これらの先行例での経験を経て到達した完成形であるとする説は、当時の墓制技術の発展段階を考察する上で重要な視点を提供しました。

伝統文化への貢献

考古学研究のみならず、京都の伝統文化の継承と振興にも深く関わっています。葵祭行列保存会の会長や時代祭考証委員長といった役職を通じて、祭礼の歴史的背景や行列の考証に貢献し、古都の文化遺産保護に寄与しています。

主な著作・論文

飛鳥時代の古墳や埴輪に関する多くの研究成果を発表しており、『埴輪』、『飛鳥の古墳を語る』などの単著、高松塚古墳に関する共編著、さらには「日本における百済系墓室の成立」などの論文があります。平安京の歴史や宮廷儀礼、祭りなど、幅広いテーマで寄稿も行っています。

これらの活動を通じて、猪熊兼勝氏は日本の考古学、特に古墳時代から飛鳥時代にかけての墓制研究に大きな足跡を残し、また文化財保護や伝統文化の継承においても重要な役割を果たしています。

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