益田岩船

益田岩船（ますだのいわふね）

益田岩船は、奈良県橿原市白橿町に位置する巨大な石造物で、奈良県の指定史跡となっています（指定名称は「岩船」）。亀石や酒船石などと並び、飛鳥地方に点在する謎めいた石造物の一つであり、その中でも最大規模を誇ります。

形状

益田岩船は、橿原ニュータウン内の白橿南小学校の西に位置する丘陵（岩船山）の頂上付近の斜面にあります。石英閃緑岩でできた台形状の巨石で、東西約11メートル、南北約8メートル、高さ約4.7メートル（北側）です。東西の側面はほぼ垂直に切り立っており、上部から側面にかけて幅1.6メートルの溝が東西方向に掘られています。この溝には、一辺1.6メートル、深さ1.3メートルの正方形の穴が、1.4メートルの間隔を置いて二つ穿たれています。

岩の重量については、約160トンから500～600トンなど諸説あります。かつては、他の場所から運ばれてきたという説もありましたが、現在では、最初からこの場所にあったと考えられています。岩の下部には、深さ10センチほどの格子状の溝が彫られていますが、これは表面を平らにするための加工が途中で中断されたものと考えられています。

建造時期・用途

益田岩船については、建造時期や用途を特定できる文献などの記録が残っていないため、詳しいことは分かっていません。ただ、江戸時代にはすでに観光地として知られていたようです。岩の加工方法や穴の大きさなどに古墳時代終末期の特徴が見られることから、7世紀頃に建造されたと推定されています。

様々な説

益田岩船の用途については、様々な説が提唱されています。

石碑の台石説: 最も古くからある説で、弘仁13年（822年）に築造された益田池を讃える石碑を載せるための台座であったというものです。益田岩船という通称も、この説に由来します。碑は後に高取城の石垣を造るための用材として砕かれたため、台石のみが残ったという伝承があります。
占星術用の観測台説: 二つの穴に石柱を立て、その上に横柱を渡して天体観測を行ったという説です。
火葬墳墓説: 穴の中に遺骨を納め、石の蓋をしたという説です。
物見台説:
横口式石槨説: 現在有力視されている説です。益田岩船から南東500メートルほどの場所にある牽牛子塚古墳は横口式石槨ですが、岩船の穴の形状もこれと似ています。そのため、岩船も古墳として造られ、完成時には現在の北壁面を下に横転させて古墳石室とする予定だったと考えられています。東側の穴と異なり、西側の穴には水が溜まらないことから、西側の穴にはひびが入っていることが分かっています。このことから、建造途中で破損が判明し、放棄されたのではないかという説もあります。猪熊兼勝は、益田岩船は兵庫県高砂市の石の宝殿に酷似しており（石質は異なる）、この2つの石造物と同様な構造を持つ完成品は、牽牛子塚古墳石室しかないとしています。牽牛子塚古墳石室の完成までに益田岩船、石の宝殿で二度の失敗を繰り返した後、軟質の竜山石（宝殿石）製で石室を完成させたものが、牽牛子塚古墳であるという説を提唱しています。

益田岩船が登場する作品

松本清張『火の路』（文春文庫）：ゾロアスター教徒の拝火台であるとの説が提示されています。
諸星大二郎『暗黒神話』（集英社文庫）
地獄先生ぬ〜べ〜第175話（集英社コミック）

アクセス

電車: 近鉄吉野線岡寺駅下車、西へ約1km、徒歩約20分
バス: 近鉄橿原神宮前駅西口から奈良交通バス[26][28]南白橿行（南妙法寺町経由）または[27]南妙法寺町行に乗車し、南妙法寺町で下車。登山口へはそこから南へ徒歩約5分。岩船下バス停の利用は不便なので注意が必要です。

登山口から岩船までは急な坂道が続き、徒歩で5分ほどかかります。階段がある箇所もありますが、ロープが張られた箇所や急勾配の場所もあり、足場が悪いため、特に雨期や雨後の登山は注意が必要です。かつては、岩船から東へ約200メートルの場所にある白橿近隣公園内の沼山古墳などからも岩船を目視できましたが、現在は竹林に覆われて困難になっています。

参考文献

『あすかの石造物』（飛鳥資料館）
猪熊兼勝「益田岩船考証」 関西大学文学部考古学研究室編『考古学論叢 - 関西大学考古学研究室 開設参拾周年記念』関西大学、1983年
河上邦彦『飛鳥発掘物語』（産経新聞社、2004年） p.100 - 102
加藤繁生「益田岩船研究小史」（『史迹と美術』887号、2018年）

関連項目

飛鳥の石造物

外部リンク

橿原市文化財-古墳時代-岩船

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