牽牛子塚古墳

牽牛子塚古墳：飛鳥時代の謎を秘めた八角墳

奈良県明日香村に位置する牽牛子塚古墳は、その独特の形状と歴史的意義から、古坟研究において重要な位置を占める古墳です。かつては円墳と考えられていましたが、2009年から2010年にかけて行われた発掘調査により、高さ約4.5メートル、一辺約22メートルの八角墳であることが判明しました。

立地と規模

明日香村の丘陵地帯、標高126.3メートルの安定した高台に立地する牽牛子塚古墳は、周辺の景観との調和も考慮された選定がなされていると考えられています。その規模は、墳丘だけでなく、墳丘を囲む八角形の石敷遺構を含めると、直径32メートルにも及ぶと推定されています。この石敷遺構は、墳丘と同じく八角形で、ブロック状の切り石が規則正しく敷き詰められている点も特徴的です。さらに、墳丘斜面には、白色凝灰岩の切り石がピラミッド状に積み上げられていたと推測されており、その数は7200個にも上ると考えられています。

特異な内部構造

牽牛子塚古墳の内部構造もまた、非常に特異です。約80トンの巨大な凝灰角礫岩をくり抜いて造られた横口式石槨は、その規模と精巧な造りから、当時の高度な技術力を物語っています。石槨内は仕切り壁によって東西2つの墓室に区切られており、合葬墓であることが示唆されています。各墓室には棺台が設けられ、天井は丸みを帯びた形状をしています。また、石槨の周囲には、巨大なデイサイト製の切り石が配置されており、これらの石材の運搬には相当な人員と労力が費やされたことが想像されます。

出土遺物と被葬者

これまでに、牽牛子塚古墳からは、麻布を漆で何重にも貼り重ねた夾紵棺の破片や、金銅製の棺金具、鉄製の釘、ガラス玉、そして人骨の一部が出土しています。これらの出土品は、被葬者の身分が高貴な人物であったことを示唆しています。特に、出土した臼歯は間人皇女のものとする説があり、このことから、斉明天皇と間人皇女の合葬墓とする説が有力視されています。出土遺物は1953年に国の重要文化財に指定され、奈良県立橿原考古学研究所附属博物館に保管されています。

築造年代と被葬者に関する議論

7世紀後半の築造と推定される牽牛子塚古墳ですが、被葬者については、斉明天皇陵である可能性が高いとしながらも、宮内庁が別の場所を斉明天皇陵として治定しているため、議論が続いています。このことは、飛鳥時代の王陵に関する新たな研究の必要性を示唆しています。一方で、天智天皇が母である斉明天皇の命令を守り大工事をしなかったという『日本書紀』の記述や、文武天皇による改葬説なども、今後の研究課題となっています。

隣接古墳の発見と今後の研究

2010年には、牽牛子塚古墳の隣接地から新たな古墳（越塚御門古墳）が発見されました。これは、斉明天皇の孫である大田皇女の墓である可能性が高いとされており、牽牛子塚古墳との関連性も合わせて今後の研究が待たれます。牽牛子塚古墳は、単なる古墳ではなく、飛鳥時代の歴史、文化、社会構造を解き明かす重要な鍵となる遺跡と言えるでしょう。今後の発掘調査や研究を通して、さらに多くの謎が解き明かされることが期待されます。

アクセス

近鉄吉野線飛鳥駅から西北西へ約550メートル。

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