猿谷紀郎

猿谷紀郎（さるや としろう）氏は、1960年7月26日に東京都で誕生した、日本の現代音楽界を牽引する作曲家であり、教育者です。その学歴は多様で、東京学芸大学教育学部附属世田谷中学校、慶應義塾高等学校を経て、慶應義塾大学法学部法律学科を1982年に卒業しています。法律を学んだ後、音楽の世界へ進むことを決意し、アメリカ合衆国ニューヨークにあるジュリアード音楽院の作曲科に入学しました。この名門校で、彼はヴィンセント・パーシケッティ、ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ、オリヴァー・ナッセンといった国際的に著名な作曲家たちから直接指導を受け、作曲家としての基礎と独自のスタイルを確立していきました。

ジュリアードでの学びを終えて帰国後、猿谷紀郎氏は作曲家として活発な活動を開始し、その作品は国内外で高い評価を獲得しました。特に、彼の才能を示す数々の受賞歴は特筆に値します。1988年にはクーセヴィツキ音楽財団よりフェロウシップ賞を授与され、1990年にはミュンヘン・ビエンナーレにおいてBMWミュージックシアター賞を受賞するなど、初期から国際的な recognition を得ました。国内では、1993年に若い才能に贈られる出光音楽賞と、その年の最も優れた日本の管弦楽作品に与えられる芥川作曲賞を同時に受賞し、作曲家としての地位を確固たるものにしました。また、日本のオーケストラ作品にとって最も重要な賞の一つである尾高賞を、1995年（第43回）、2006年（第54回）、2014年（第62回）と、三度にわたり受賞しています。これは、彼の創作活動が長きにわたり最高水準を維持し、日本のオーケストラ音楽の発展に貢献し続けていることの明確な証です。さらに、2004年には芸術祭において、舞踊部門と音楽部門で大賞、ラジオドラマ部門で最優秀賞を受賞するなど、多岐にわたる分野での活躍が認められています。

作曲活動に加え、教育者としての貢献も大きい猿谷氏。2000年からは大阪教育大学に奉職し、音楽教育講座の助教授（後に准教授）に就任しました。現在も同大学の准教授として教壇に立ち、次世代の音楽家や音楽教育に携わる人材の育成に情熱を注いでいます。

彼の作品は、多様な編成と独創的な音楽語法で知られています。代表的な作品としては、サイトウ・キネン・フェスティバル松本からの委嘱により制作されたオペラ『ビアトリクス・ポター物語』（1996年）や、読売日本交響楽団の委嘱作品である『ここに慰めはない』（2005年）といった大規模な作品があります。その他にも、『石と光』（1989年）、『息の綾』（1992年）、『透空の蔦』（1994年）、『臨照』（1997年）、『碧い知嗾』（2003年）、『すさのつらなり』（2007年）、そしてバンド維新委嘱作品『Dawn Pink 2』（2015年）など、室内楽から管弦楽まで幅広いジャンルの作品を手がけています。彼の音楽世界の一端は、CD『Fiber of the breath』（Fontecよりリリース）を通じて触れることができます。

また、作曲や教育活動だけでなく、メディアを通じた音楽普及活動にも積極的に関わりました。特に、2009年4月から2015年3月までの約6年間、NHK-FMの長寿番組「現代の音楽」で解説者を務め、国内外の現代音楽作品や作曲家について、深い知見と分かりやすい言葉で解説を行い、多くのリスナーが現代音楽に親しむ機会を提供しました。テレビ番組への出演もあり、2014年7月22日放送の「中居正広のミになる図書館」にも登場しています。

このように、猿谷紀郎氏は作曲家として卓越した才能を発揮し、数多くの賞を受賞しながらも、教育者として後進の指導に尽力し、さらにはメディアを通じて現代音楽の普及にも貢献するなど、日本の音楽界において多面的な活躍を続けている存在です。

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