王子検車区

東京都北区に所在する東京地下鉄（東京メトロ）の車両基地で、同社の南北線に所属する車両が配置されています。最寄り駅は南北線の王子神谷駅であり、施設の大半は北区立神谷堀公園の地下に建設されています。この車両基地は、かつての帝都高速度交通営団（現・東京メトロ）が新たに設けた車両基地としては初めての地下構造であることが特徴です。

沿革

この車両基地は、南北線の初期開業に先立ち、1991年（平成3年）11月29日に「王子車両区」として発足しました。営団地下鉄の保守体制では、一般的に日常検査を行う「検車区」と大規模修繕を行う「整備工場」が分けられていましたが、南北線の開業当初は一つの基地で両方の業務を担う計画だったため、より広い範囲の機能を含む「車両区」という名称が採用されました。計画段階では「神谷橋留置線」あるいは「神谷橋車両基地」とも呼ばれていました。

1996年（平成8年）3月15日、南北線の四ツ谷延伸開業を控えるにあたり、組織が再編され、日常検査機能を主に担当する「王子検車区」に名称が変更されました。これに伴い、大規模な工場業務は千代田線の綾瀬工場へ、車輪転削業務は和光検車区へ移管されました。その後、一部の清掃や検査、車輪転削業務は埼玉高速鉄道へ委託先が変更されています。

当初、南北線の最初の計画では、車両基地は岩淵町（現在の赤羽岩淵駅付近）から分岐する専用線を経由して、北区西が丘の旧東京陸軍兵器補給廠（TOD）敷地（現在の国立西が丘サッカー場付近）に建設される予定でした。しかし、この計画に対して地元住民から強い反対運動が発生し、建設地は陸上自衛隊武器補給処十条支処赤羽地区跡地（現在の赤羽自然観察公園付近）へと移転する方針に変更されました。ここでは地下2層構造で230両を収容できる大規模な施設が計画されていましたが、最終的には現在の神谷堀公園の地下に建設されることとなりました。この一連の住民運動は、営団地下鉄への路線免許交付を一時的に中断させるなど、南北線の建設事業全体に大きな影響を与えました。

現在の敷地は、建設時に開削工法で掘削された後、公園として復旧されています。地上部には一部の施設と事務所棟が位置していますが、大部分は地下空間を利用しています。

施設概要

王子検車区の施設は、地上の「地下鉄王子ビル」と「車両搬入庫」、そして地下の検修設備から構成されます。

地上部

地下鉄王子ビルは、南北線の総合事務所として機能しており、かつて王子運輸区（現・王子神谷運転事務室）、王子検車区事務所、南北線工務区（現・半蔵門線・南北線工務区王子神谷分室）、南北線電気区（現・南北線電機区・南北線信通区）などの部署が置かれていました。地上5階、地下1階建ての構造です。

車両搬入庫は、地上から地下へ車両を降ろすための設備として設けられましたが、現在は車両の搬入は行われておらず、資機材の搬出入口として利用されています。この搬入庫は複雑な構造をしており、地上から直接地下3階の車庫線へは降ろせず、地上から地下2階へ、さらに地下2階から地下3階へと段階的に降ろす方式が取られていました。各搬入口には15t天井走行クレーンが備えられています。

南北線開業当初、他路線との接続がなかったため、新造車両は綾瀬検車区へ陸送され、検査・試運転を行った後、トレーラーによる道路輸送で王子車両区の搬入庫から地下へ搬入されていました。この道路輸送による搬入は、1996年の四ツ谷延伸開業により市ケ谷駅に有楽町線との連絡線が設置されて以降は行われていません。

地下部（検修設備）

検車区の主要部分は地下に設けられており、地下2階と地下3階の2層構造となっています。地下2階は王子神谷駅の地下階とも連絡しており、事務所や作業室、空調機械室、電気室などが配置されています。かつてはこのフロアに工場設備の一部も設けられていました。

地下3階が車庫線となっており、王子神谷駅からの引き込み線から分岐して複数の線路が並んでいます。主な線路としては、試運転線、自動洗浄線、月検査線、修繕線（整備線から名称変更）、転削線などがあり、合計5線以上の線路が敷かれています。また、本線への引き上げ線や、試運転線から分岐する洗浄線、修繕線も設けられています。

開業当初は一部の重要部検査も実施していましたが、車体は地下3階からクレーンで地下2階に引き上げて作業を行っていました。台車などの重要部品は綾瀬工場へ陸送して検査していました。現在、大規模検査（全般検査、重要部検査）は市ケ谷駅の連絡線を介して有楽町線を経由し、綾瀬工場で実施されています。

主要な検修設備としては、床下機器の点検が可能なプールピット構造の線路（月検査線、修繕線）や、屋根上点検台、移動式の剛体架線設備などが備えられています。かつて車輪転削盤も設置されていましたが、車両増備により対応できなくなったため、現在は浦和美園車両基地などで実施されています。車両洗浄も同様に、浦和美園車両基地へ移管された部分がありますが、8両編成に対応可能な自動洗浄機は現在も設置されています。

収容能力と配置車両

王子検車区の設計上の車両留置能力は40両（8両編成×5本）とされています。しかし、2024年4月1日現在、南北線には9000系電車が合計140両（6両編成22本、8両編成1本）配置されており、検車区単体では全ての車両を収容できません。このため、夜間留置は本検車区の他に、市ケ谷留置線、埼玉高速鉄道の浦和美園車両基地、東急電鉄の元住吉検車区など複数の場所を利用して行われています。

市ケ谷留置線

王子検車区の収容能力を補うため、市ケ谷駅付近の地下にも留置線が設けられています。この市ケ谷留置線は、市ケ谷駅の躯体と一体構造で、外堀新見附濠の下に位置します。8両編成4本（32両）を留置することが可能であり、また南北線市ケ谷駅から有楽町線市ケ谷駅へ繋がる連絡線の役割も担っています。

その他

2007年（平成19年）には、長野電鉄から東京メトロに里帰りした日比谷線3000系車両の復元工事が当検車区で行われました。この車両は綾瀬車両基地に陸送された後、終電後の深夜に南北線9000系と連結して回送され、当検車区で復元作業が実施されました。

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