王様を起こさないで

トムとジェリー：王様を起こさないで

1958年公開のアニメーション作品『王様を起こさないで』(Royal Cat Nap)は、人気シリーズ『トムとジェリー』の代表作の一つです。中世の城を舞台に、短気な王様、忠実な（はずの）近衛兵トム、そしていたずら好きのジェリーとニブルスが織りなすドタバタ劇は、見ている者を笑いの渦に巻き込みます。

物語は、昼寝中の王様の安眠を妨げるジェリーとニブルスのいたずらから始まります。王様の枕元でチーズや果物を荒らす彼らの行動に業を煮やした王様は、近衛兵のトムに厳命。昼寝の邪魔をする者を徹底的に排除するよう命じます。トムは、王様の怒りを恐れて、ジェリーとニブルスを追い払うべく奮闘しますが、彼らの巧妙な策略の前に翻弄されます。

ジェリーとニブルスは、王様の寝室で次々といたずらを実行します。花瓶を落とし、皿を投げつけ、トムを傷つけ悲鳴を上げさせ、さらにはプレートアーマーを揺らしてけたたましい音を立てたりと、その悪巧みは留まるところを知りません。トムは、必死にジェリーたちを追い払おうとしますが、彼らの予想外の行動に苦戦を強いられます。

ついに、トムはジェリーたちを寝室から追い出し、施錠して鍵を飲み込んでしまいます。これで安心したのも束の間、ジェリーたちは鍵穴から矢を射かけ、その矢がトムの尻に命中。鍵を飲み込んだために部屋から出られなくなったトムは、激しい痛みに悶え苦しみます。

その様子は、王様の耳にも届き、王様は激怒。トムに拷問の上、死刑を宣告します。しかし、その直後、寝室に忍び込んだニブルスが、王様の耳元で子守唄「フレール・ジャック」をささやき始めます。すると、激昂していた王様は徐々に落ち着きを取り戻し、安らかに眠りにつきました。

王様の安眠を確認したトムとジェリーは、静かに部屋を後にし、なんと握手をして和解します。ニブルスは「C'est la Guerre（これが戦争だ）」と呟き、その後、いつものようにトムとジェリーは外で激しい追いかけっこを再開します。

この作品におけるトムとジェリーの勝敗は、はっきりとはしません。どちらか一方の勝利というよりは、お互い様といった、一種の引き分けと言えるでしょう。また、ニブルスが花瓶を落とすシーンでは、作画ミスとしてニブルスの体色と服の色がジェリーと同一になっているという点も見逃せません。

さらに、『武士道はつらい』という作品でもニブルスが「フレール・ジャック」を歌っていることや、トムが遠くに離れて叫ぶシーンが、テックス・アヴェリー監督の『ドルーピー』シリーズへのオマージュである点も興味深いところです。

日本においては、1964年から1990年頃まで、TBS系をはじめとするテレビ局で断続的に放映され、多くの人々に親しまれてきました。本作品は、トムとジェリーの定番のユーモラスな演出に加え、意外な展開と、彼らの関係性の複雑さを垣間見せる奥深さを持つ、傑作と言えるでしょう。

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