王璡

王璡（おう しん）

王璡は、生年不詳ながら明代に活躍した学者であり官僚です。字（あざな）は器之（きし）といい、その本貫は莒州日照県にあります。

生涯

王璡は、経書や史書に広く通じており、中でも『春秋』の解釈に深い造詣を持っていました。当初は教授として教鞭を執っていましたが、ある事件に連座して遠方へ流罪となる不遇を経験します。しかし、その才能は埋もれることなく、洪武帝の末年には賢能な人物として推薦され、寧波府の知府という要職に任じられました。

靖難の変が発生すると、王璡は燕王軍が長江に迫る事態を憂慮し、建文帝を守るために戦艦を建造しようとしました。しかし、この動きは衛兵に察知され、捕縛されて南京に連行されてしまいます。永楽帝の尋問を受けましたが、罪を問われることなく釈放され、故郷に帰ることが許されました。その後、王璡は再び朝廷に仕え、翰林院侍講・承直郎という官職に就いています。宣徳元年3月1日（1426年4月8日）に亡くなりました。

人物・逸話

王璡の人物像を語る上で欠かせないのが、その勤勉さと節倹の精神です。彼は毎晩、午前2時頃になると蝋燭を灯して読書に励み、その音読の声は役所の外まで聞こえたといいます。その勤勉な姿に感化された学課の学生たちは、彼の元を訪れて学び、怠けることがなかったそうです。

また、王璡は寧波府内で横行していた淫祠（いんし：みだらな祠）を徹底的に破壊しました。その中には三皇祠（さんこうし）も含まれており、これに異議を唱える者もいましたが、王璡は「祀るべきでない祠を淫といい、祀ることのできない祠を瀆という。三皇を祀ることができるのは天子のみであり、士人や庶民はそれに参加することはできない。破壊したことに何の問題があろうか」と反論し、周囲を納得させました。

王璡は極めて質素な生活を送っていたことでも知られています。ある日、供え物として魚羹（魚のスープ）が用意されましたが、王璡は妻に対し「私が草の根を食べていた時のことを覚えているか」と問いかけ、その魚羹を埋めるよう命じました。この出来事から、当時の人々は王璡のことを「埋羹太守（まいこうたいしゅ）」と呼んだそうです。この逸話は、彼の質素倹約な生き方を象徴しています。

靖難の変で捕らえられた際、永楽帝から「戦艦を造ったのは何のためか」と問われた王璡は、「海に浮かべて瓜洲に進み、軍の南渡を阻もうとしただけです」と堂々と答えました。この言葉は、彼の忠義心と不屈の精神を示していると言えるでしょう。

参考文献

* 『明史』巻143 列伝第31

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