王直

王直（おう ちょく）

王直（生年不詳 - 嘉靖38年12月25日（1560年1月22日））は、明代の貿易商人（海商）であり、後期倭寇の頭目としても知られています。汪直とも呼ばれ、もとの名は王鋥（おう とう）。徽王や老船主とも称されました。

生涯

王直は徽州府歙県に生まれました。若い頃は任侠の徒として知られ、塩の取引に失敗した後、明の海禁政策下で葉宗満らと禁制品の密貿易に従事しました。浙江省寧波府沖の双嶼港を拠点に、許棟・李光頭の配下として東南アジアや日本の港と密貿易を行い、博多の商人との交易を通じて日本人からの信頼を得ました。

嘉靖27年（1548年）、朱紈らが密貿易を取り締まるために双嶼を攻撃すると、王直は逃れて海賊集団を組織し、浙江省舟山諸島の烈港を本拠地として徽王と称し、徐海と並ぶ倭寇の頭目となりました。

度重なる明の海禁政策を逃れ、嘉靖19年（1540年）には日本の五島に来住し、松浦隆信に招かれて嘉靖21年（1542年）に平戸に移りました。地方官憲や郷紳らと通じ、養子や甥の王汝賢らを幹部に据えて密貿易を拡大しました。

明の河川や沿岸地域に詳しかったため、倭寇の代表的な頭目となり、嘉靖32年（1553年）5月には37隻を率いて太倉・江陰・乍浦などを襲撃し、同年8月には金山衛・崇明に侵入しました。

朱紈の死後、倭寇の取り締まりは一時的に弱まりましたが、兪大猷らが新たに赴任し、嘉靖35年（1556年）には胡宗憲が浙江巡撫に就任しました。胡宗憲が総督に就任すると、王直は上疏（じょうそ）し、自身はもはや倭寇ではないとして恩赦を求め、海禁の解除と自らの管理下での貿易を願い出ました。しかし、明朝による倭寇の鎮圧は本格的に開始され、嘉靖38年（1557年）に王直は官位をちらつかせた明の誘降に乗って舟山列島の港に入港しました。明朝内部では王直の処遇について意見が対立しましたが、嘉靖36年12月（1560年1月）に捕えられ、処刑されました。

評価

王直に対する評価は、中国の歴史家の間でも意見が分かれています。貿易商人としての側面が評価される一方で、倭寇の頭目であり、日本と通じた売国奴であるとの否定的な評価も存在します。

墓碑

2000年には、長崎県五島市の日本人が、王直の故郷である安徽省黄山市歙県雄村鎮拓林村の墓地に王直の墓を建立しました。

しかし、2005年1月31日、王直を倭寇と結託した漢奸であるとする中国人の大学教員2名によって、墓に刻まれた名前の一部が削り取られる事件が発生しました。教員らは「王直は死刑になった中国の罪人であり、日本人が墓を建てることは中国人を蔑視するものだ」と主張しました。そのうちの一人である南京大学副教授の郭泉は、中国共産党政府の一党独裁制を批判したり、情報公開などを要求する内容をインターネットで発表し続けた結果、逮捕され、2009年に国家転覆罪で10年の監禁刑を宣告されています。

脚注

参考文献

『海国史談』1905年
鄭舜功『日本一鑑』
島崎晋『中国任侠列伝 : 天子恐るるに足らず!!』PHP研究所、2003年。ISBN 4-569-63039-1。

関連項目

明人堂

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