王立フィリピン会社の総会

『王立フィリピン会社の総会』

フランシスコ・デ・ゴヤが1815年に描いた『王立フィリピン会社の総会』は、スペインロマン主義の象徴的な作品の一つです。この巨大な油彩画は、同年3月30日にマドリードで開催された王立フィリピン会社の株主総会の様子を描写しており、ゴヤの作品の中でも特に大きなキャンバスを持つものとして知られています。現在、この作品はフランスのカストルにあるゴヤ美術館に所蔵されています。

制作の背景と過程

王立フィリピン会社は、財政家フランシスコ・カバルースの指導で1785年に設立され、スペインの東洋及びラテンアメリカにおける商業活動を管理していました。この株主総会には、フィリピンをはじめとするスペインの植民地から選出された議員も出席しており、単なる経済の集まりを超えた政治的な意味合いも持っていました。

1815年3月の株主総会が開催される中、ゴヤはその記録を残すために絵画の制作を依頼されました。国王フェルナンド7世が議長を務め、重要な決議や意見が交わされる場面を捉えることが求められました。依頼は委員会のメンバーであり、国王の支持者であったミゲル・デ・ラルディサバルによって進められ、ゴヤは実際に作品を手掛けることになります。

作品の描写と分析

この作品は、中央に座るフェルナンド7世を強調した構図となっており、彼の背後には理事たち、そして両端には株主たちが配置されています。ゴヤは、議長席に座る国王の姿勢を威厳と威圧感をもって描きました。一方で、株主たちの様子は国王に対する敬意とは対照的に、互いにおしゃべりをしたり、姿勢が崩れていたりするように描かれ、疲労感が滲み出ています。この対比は、総会の長引きや、当時の政治的な緊張感を暗示しているとも解釈されています。

照明と雰囲気

ゴヤは明るい光を右側の窓から差し込ませ、大広間全体を明るく照らしています。この手法は、ディエゴ・ベラスケスの『ラス・メニーナス』からの影響を受けており、作品の端々まで光と影を巧みに使い分けています。大広間の重苦しい雰囲気を引き立てるために、特にフェルナンド7世とラルディサバルの存在を際立たせる工夫もなされています。

批評と評価

この作品は、株主たちの姿勢や疲労感が、権力に対する批判として解釈されることが多いのが特徴です。ゴヤが描くこうした人物像には、当時の絶対君主制へのアンチテーゼが込められているとの見方もあります。著名な批評家は、彼が描き出す空間には近代の虚無感が漂っていると指摘し、作品を通じてスペインの社会状況を暗示していると解釈しています。

作品の来歴

完成後、この絵画は一時的にその所有が不明となり、1829年から1881年の間に市場に出回ったと思われています。その後、マドリードの画家によって購入され、フランスのコレクターに渡るなど、作品の行方は波乱に満ちています。1893年には、画家の息子がこの作品をゴヤ美術館に寄贈し、現在の展示に至っています。

ゴヤの『王立フィリピン会社の総会』は、芸術的価値だけでなく、歴史的・政治的コンテクストにおいても非常に興味深い作品です。彼が描く人物たちの表情や姿勢は、当時の社会情勢を映し出し、見る者に多くの思索を促します。

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