現川焼

現川焼：幻の名窯、その美と歴史

現川焼（うつつがわやき）は、江戸時代の元禄期から寛延期にかけて、現在の長崎県で焼かれた陶器です。わずか60年ほどの短い期間に、独自の美意識と高度な技術が凝縮された作品が数多く生み出され、茶人や文化人たちを魅了しました。

開窯と初期の隆盛

現川焼の歴史は、1691年（元禄4年）に諫早家の家臣であった田中刑部左衛門が、隠居後に二男の甚内と共に開窯したことに始まります。彼らは、鉄分を多く含む地元の粘土を使用し、様々な化粧刷毛目や大胆な造形を特徴とする陶器を製作しました。舟形や隅切などの斬新な器形、そして四季折々の美しい風景を描いた図柄は、当時の人々から高く評価され、「西の仁清」や「刷毛目文様の極致」と称えられました。

1704年（宝永元年）には、窯の守護神として窯観音が建立され、創始者の田中宗悦、甚内、そして重富茂兵衛らの名前が刻まれました。これは、当時の現川焼が地域社会において重要な存在であったことを物語っています。

廃窯と再興への道

しかし、現川焼は1748年（寛延元年）頃に突然廃窯となります。その理由は定かではありませんが、短い期間でその歴史に幕を閉じました。

その後、明治時代に入り、1895年から1903年にかけて馬場藤太夫、1897年頃には檀野勝次によって再興が試みられましたが、いずれも長くは続きませんでした。幻の名窯として、その名は忘れ去られようとしていました。

現代に蘇る幻の陶器

しかし、現川焼の火は完全に消えたわけではありませんでした。第12代横石臥牛が、長年の研究の末に技法と様式の再現に成功したのです。さらに、第13代横石臥牛がその技術を受け継ぎ、品質を向上させることで、現川焼は見事に現代に蘇りました。

その功績が認められ、第12代および第13代横石臥牛は、長崎県無形文化財（佐世保）の指定を受けています。彼らの努力によって、現川焼は再び人々の目に触れる機会を得て、その美しさを今に伝えています。

現川焼の魅力

現川焼の魅力は、何と言ってもその独特な意匠にあります。大胆な造形、繊細な刷毛目、そして美しい絵付けが融合し、他に類を見ない個性を放っています。また、短い期間に生み出された陶器であるため、現存する作品が少なく、その希少性も魅力の一つとなっています。

現川焼は、日本の陶磁器の歴史において、特異な光を放つ存在です。その短い生涯の中で、独自の美意識を追求し、後世に多大な影響を与えました。幻の名窯と呼ばれた現川焼は、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

『現川焼』 - コトバンク
現川焼陶窯跡 田中宗悦の墓石1基・窯観音1基（堂を含む） - 長崎県

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