球状アンフォラ文化

球状アンフォラ文化：ヨーロッパ銅器時代の謎

球状アンフォラ文化は、紀元前3400年から紀元前2800年頃、ヨーロッパ中部に栄えた銅器時代の文化です。エルベ川西岸からドニプロ川中流域にまで広がり、後のインド・ヨーロッパ語族の拡大に大きな影響を与えたと考えられています。その範囲は、先行する漏斗状ビーカー文化とほぼ一致し、初期には両文化が共存していました。

生活と社会

この文化の遺跡は、住居跡よりも墓地跡が多く発見されています。ポーランドでは、四角形や円形の基礎を持つ家屋跡も発掘されており、孤立した家屋や集落を形成していたことがわかります。しかし、多くの住居は一時的なもので、定住生活の様態は不明な点が多く残されています。

主な生業は牧畜で、牛、豚、羊、ヤギ、馬などを飼育し、シカやウサギなどの狩猟も行っていました。初期には豚の飼育が中心でしたが、これは牛を飼育していた漏斗状ビーカー文化とは対照的です。一方で、一部の遺跡では牛が主要な家畜であった事例も見られます。農耕も営んでおり、小麦、大麦、エンドウなどを栽培していたと考えられています。

特徴的な遺物と埋葬

この文化の名称は、特徴的な丸い土器「アンフォラ」に由来します。アンフォラは、2つまたは4つの小さな取手が付いた独特の形状をしており、様々な模様が施されています。墓地からは、フリント製の斧などの石器も多数出土します。

埋葬は土葬で、遺体は腰と膝を折り曲げて横向きに埋葬され、頭は必ず東を向いています。石棺を用いる場合もあり、蓋には弓矢などの彫刻が施されていることもあります。副葬品には、アンフォラやその他の土器、石器、琥珀のビーズ、動物の骨製品などがあり、動物の生贄が行われていた痕跡も見られます。牛の骨が丸ごと埋葬されている例もあります。木製の盾とみられる遺物も発見されています。

インド・ヨーロッパ語族との関連性

球状アンフォラ文化がインド・ヨーロッパ語族の起源や拡大の議論に登場するのは、移動型の経済、馬の家畜化の可能性、特徴的な陶器、そして埋葬儀礼が主な理由です。特に、寡婦殉死の習慣は、インド・ヨーロッパ語族との関連を示唆する重要な要素とされています。牛の生贄や琥珀の日輪像などの風習も、インド・ヨーロッパ語族の特徴的な文化要素と共通しています。

この文化の陶器は、コーカサス山脈北麓のマイコープ文化やドニプロ川中流域のミハイロフカ下層文化と関連があると推測され、クルガン仮説においてはその地域的つながりが強調されています。しかし、その起源については、東方のステップ文化との関連性について疑問を呈する意見もあります。最新の研究では、複数の土着文化や周辺文化が複合的に関与した起源が示唆されており、単純な外来説や土着説では説明できない複雑な歴史を持つと考えられています。

地理的広がりと影響

球状アンフォラ文化は、その広大な地理的範囲から、ゲルマン語派、スラヴ語派、バルト語派、ヘレニック語派などの基層文化と推定されています。さらに、ケルト語派やイタリック語派の支配層もこの文化に由来し、青[[銅器時代]]を通じて西欧や南欧の非インド・ヨーロッパ語族社会を支配したと考えられています。

発掘結果から、中心地はポーランド中部と推定され、カルパチア山脈などの地形的要因が、東西ヨーロッパ間の文化交流に重要な役割を果たしたと考えられます。また、縄目紋土器文化や鐘状ビーカー文化との関係も指摘されており、インド・ヨーロッパ語族の拡大とヨーロッパ文化の形成に多大な影響を与えた文化であったと言えるでしょう。マリア・ギンブタスは、クルガン仮説において、この文化をインド・ヨーロッパ語族の第二の源郷と位置づけています。

今後の研究

球状アンフォラ文化は、その起源、インド・ヨーロッパ語族との関連性、周辺文化との相互作用など、多くの謎を残したまま、研究が進められています。今後の研究によって、ヨーロッパの古代史、特にインド・ヨーロッパ語族の起源と拡大に関する理解がさらに深まることが期待されます。

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