理論物理学教程

『理論物理学教程』（露: Курс теоретической физики; 英: Course of Theoretical Physics）は、理論物理学の基礎を網羅した、レフ・ランダウ、エフゲニー・リフシッツ、そしてレフ・ピタエフスキーらによって執筆された、世界的に著名な教科書シリーズです。通称『ランダウ＝リフシッツの理論物理学教程』として知られ、その内容は多岐にわたり、力学、場の古典論、量子力学、量子電気力学、統計物理学、流体力学、弾性理論、媒質中の電気力学、量子統計物理学、そして物理学的運動学まで、物理学の広範な領域をカバーしています。

この教程は、様々な言語に翻訳され、世界中の大学や研究機関で標準的な教科書として採用されており、物理学を学ぶ学生や研究者にとって、なくてはならない存在となっています。日本では、個々の巻を指して「ランダウの力学」「ランダウの統計」などと、執筆者の一人であるランダウの名前を冠して呼ばれることが多いです。しかしながら、実際にこの『教程』を執筆したのは、ランダウではなく、リフシッツでした。ランダウは文章を書くことを得意としていなかったため、リフシッツがその役割を担いました。さらに、ランダウが交通事故に遭い、未完だった10巻のうち3巻を、リフシッツはピタエフスキーの協力を得て完成させました。

『教程』は、初版発行後も継続的な改訂が行われており、各巻の内容は、初期の版と比較して大幅に増ページされています。これにより、最新の物理学の知見が反映され、常に最先端の知識を提供し続けています。日本語版は、岩波書店と東京図書から出版されていますが、一部の巻は品切れ・絶版となっています。しかしながら、近年、力学や場の古典論などの巻がソフトカバー版として再発売され、また、統計物理学の第3版も復刊されるなど、入手しやすい状況になりつつあります。2022年からは、東北大学の有志による最新版の翻訳プロジェクトも進行しており、今後の展開が期待されます。

この教程の内容は非常に高度であり、物理学を専門とする学生や研究者向けの教科書ですが、ランダウ自身が構想した『小教程』というシリーズも存在します。これは、『教程』の内容をより平易に解説したもので、物理学を専門としない人々にも物理学の全般的な知識を理解できるように企画されています。『小教程』は、文庫判で出版されており、より幅広い層に物理学への理解を深める機会を提供しています。この『小教程』の日本語訳書としては、『力学・場の理論 ランダウ＝リフシッツ物理学小教程』や『量子力学 ランダウ＝リフシッツ物理学小教程』があります。

『理論物理学教程』は、その圧倒的な網羅性と詳細な解説によって、物理学の学習と研究において、非常に重要な役割を果たしています。その影響は、現代の物理学研究のあらゆる分野に及んでおり、物理学を学ぶ人々にとって、この教程はまさに必読の書と言えるでしょう。

現在、日本語版で入手困難な巻も多いものの、復刊や新版翻訳の動きが活発化しており、この名著が再び多くの読者に届く日が近いと期待されています。

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