琴古主

琴古主（ことふるぬし）

琴古主は、江戸時代の妖怪画家・鳥山石燕による妖怪画集『百器徒然袋』に登場する日本の妖怪で、古くなった琴が変化したものとされています。

概要

石燕の描く琴古主は、破損した箏（こと）に目や口が生え、糸（絃）がざんばら髪のように乱れた姿をしています。石燕による解説文には、「八橋とかいへる瞽しゃのしらべをあらためしより つくし琴は名のみにしてその音いろをきき知れる人さへまれなれば そのうらみをしらせんとてか かかる姿をあらわしけん」と記されています。これは、箏曲に使われる筑紫箏（つくしごと）が忘れ去られ、その音色を知る人も少なくなったことへの恨みが、妖怪として具現化したものと解釈できます。

成立の背景

琴古主の成立には、いくつかの要素が考えられます。

徒然草の影響：『徒然草』第十六段には、「常に聞きたきは琵琶和琴」という一節があり、当時の人々にとって琴が身近な楽器であったことが伺えます。
百鬼夜行絵巻の影響：室町時代の妖怪絵巻『百鬼夜行絵巻』には、琵琶の妖怪に引かれる琴の妖怪が描かれています。石燕は、この絵巻から着想を得て琴古主を描いたと考えられています。同じ見開きに琵琶の妖怪である琵琶牧々が掲載されている点も、この説を裏付けています。

近年の解釈

平成以降の妖怪関連書籍では、景行天皇の時代の伝承に登場する「琴古主」という名の木に言及したものがあります。それによると、景行天皇が宴を開いた際、記念に琴を丘に置いたところ、琴がクスノキの木に姿を変えたとされています。その後、夜になるとその木のあたりから琴の音が聞こえるようになり、人々はその木を「琴古主」と呼ぶようになったといいます。

肥前国風土記との関連性

『肥前国風土記』には、景行天皇が岡を造営し、そこに琴を立てたところ、それがクスノキの大木になったという「琴木の岡」の伝承が記されています。しかし、『肥前国風土記』には「琴古主」という名前は登場しません。また、近年の書籍における解説では、鳥山石燕の描いた琴古主への言及が少ないため、琴の楠と琴古主を結びつけている根拠は明確ではありません。

まとめ

琴古主は、忘れ去られた楽器の恨み、古典文学や絵巻物の影響、そして地方の伝承などが複雑に絡み合って生まれた妖怪であると言えるでしょう。石燕の描いた妖怪画は、単なる怪奇な存在ではなく、当時の文化や人々の想いを反映したものであり、琴古主もまた、その一つとして捉えることができます。

関連項目

琵琶牧々
三味長老
* 日本の妖怪一覧

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