百鬼夜行絵巻

百鬼夜行絵巻：妖怪たちの不思議な行列

『百鬼夜行絵巻』は、日本の絵巻物の中でも特異な存在感を放つ作品群です。様々な妖怪が夜な夜な行列する様子を描いた絵巻で、室町時代から明治・大正時代にかけて、多数の作品が制作されました。現在でも国内外の美術館や個人によって多くの絵巻物が所蔵されており、その謎めいた世界観は人々を魅了し続けています。

多様な系統と真珠庵本

「百鬼夜行絵巻」という名称は、後世になって付けられた総称であり、制作された時代や所蔵者によって、作品タイトルは『百鬼ノ図』や『妖怪絵巻』など様々でした。絵巻の内容も、描かれる妖怪の種類や配置、絵のタッチなど、多様なバリエーションが存在します。

中でも最も有名で、多くの研究者や愛好家の注目を集めているのが、京都市にある大徳寺真珠庵に所蔵されている『百鬼夜行図』（通称「真珠庵本」）です。室町時代（16世紀）に制作され、土佐派の画家・土佐光信の作と伝えられていますが、確証はありません。この真珠庵本は、重要文化財に指定されており、その精緻な描写と独特の世界観から、多くの複製や模倣が作られたと考えられています。しかし、真珠庵本がすべての百鬼夜行絵巻の原型であるとは限らず、それ以前から様々な系統の絵巻が存在していた可能性も示唆されています。

絵巻の謎：詞書と妖怪たちの正体

多くの百鬼夜行絵巻には、絵の内容を説明する詞書（ことばがき）がありません。そのため、妖怪たちがどのような行動をしているのか、絵巻の主題は何なのか、明確な解釈は困難です。鑑賞者たちは、絵から自由に物語を想像し、それぞれの解釈を楽しんだのかもしれません。

ただし、ニューヨーク公共図書館などに所蔵されている数少ない詞書のある作品では、治承年間（1177-1181）に福原の廃墟で異形たちが現われたという記述が見られます。これらの詞書が、真珠庵本などの原型に元々あったものか、後世に付け加えられたものかは、未だ不明です。

妖怪たちの正体：器物妖怪を中心に

百鬼夜行絵巻に登場する妖怪たちは、平安時代の説話集などに登場する鬼とは異なるイメージです。特徴的なのは、多くの妖怪が、鍋や釜などの日用品が変化した「器物妖怪」であることです。しかし、それだけでなく、動物や植物なども描かれており、『鳥獣人物戯画』のような、様々な生き物や物が戯れる図像様式も観ることができます。

現存する主な作品

現在確認されている百鬼夜行絵巻は、真珠庵本を始め、大阪市立美術館、国際日本文化研究センター、東京国立博物館、国立歴史民俗博物館、さらには海外の美術館などにも所蔵されています。それらは、真珠庵本と同様の図様を持つものから、全く異なる妖怪が登場するものまで様々です。江戸時代の作品には、狩野洞雲による『百鬼夜行図』などもあり、それらは『百怪図巻』の影響が見られるものもあります。

これらの絵巻物の制作年代や系統、相互関係については、未だ研究が続けられています。古文書に記録が残るものの現存しない作品もあり、謎は尽きません。

研究の現状と今後の展望

『本朝画図品目』などの江戸時代の文献には、土佐派の画家によって描かれたとされる複数の百鬼夜行絵巻の記述が残されています。しかし、これらの作品が現存するかどうかは不明であり、その内容についても詳細は分かっていません。

21世紀においても、百鬼夜行絵巻の研究は継続中です。様々な系統の絵巻物の相互関係や、その起源を探る試みは、今後も重要な課題であり続けるでしょう。新たな発見や解釈によって、この不思議な絵巻物の世界が、さらに深く理解されていくことが期待されます。

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