肥前国風土記

肥前国風土記（ひぜんのくにふどき）

概要

『肥前国風土記』は、奈良時代初期に編纂された肥前国（現在の佐賀県・長崎県）の地誌であり、現存する五つの風土記の一つです。この風土記は、当時の肥前国の地理、歴史、文化、伝説などを記録しており、古代日本の地方の様子を知る上で貴重な資料となっています。

成立年代

『肥前国風土記』の成立年代については、郷里制が行政区域として採用されていたことや、軍事的な記述（城や烽など）が詳細に記されていることから、天平4年（732年）の節度使設置から同12年（740年）の郷里制廃止までの間に編纂されたとする説が有力です。ただし、これを裏付ける確固たる証拠は今のところ見つかっていません。

また、『豊後国[[風土記]]』との共通点が多いことから、大宰府に着任した藤原宇合が主導し、管轄下の各国で同時期に編纂されたとする見方もあります。この説は、当時の律令国家における地方行政の実態を考察する上で重要な示唆を与えてくれます。

内容の特徴

風土記の主要な構成要素である国名や郡名の由来に関する記述は、非常に簡略に留まっているのが特徴です。このことから、現存する写本は原本ではなく、抄出本からさらに書き写されたものだと考えられています。そのため、内容の正確性や完全性については注意が必要です。

また、景行天皇や神功皇后の伝説と密接に関わる説話や、土蜘蛛、女性首長（大山田女、狭山田女、八十女、速来津姫など）に関する説話が多く記載されているのも大きな特徴です。これらの説話は、当時の人々の信仰や社会構造、文化的な背景を垣間見せてくれます。

さらに、『日本書紀』などの先行する史料の影響を受けている記述も見られます。これは、風土記が単なる地方の記録ではなく、当時の歴史観や文化的な視点を反映したものであることを示唆しています。

写本について

鎌倉時代後期に書写されたと推定される猪熊家旧蔵の写本「猪熊家本」は、国宝に指定されています。この写本は、『肥前国風土記』の貴重な伝本として、その内容を後世に伝える上で重要な役割を果たしています。

まとめ

『肥前国風土記』は、奈良時代初期に編纂された肥前国の地誌であり、当時の地方の様子を知るための重要な資料です。成立年代や内容、写本に関する情報などを総合的に考察することで、古代日本の歴史や文化に対する理解を深めることができます。この風土記は、単なる記録文書としてだけでなく、古代の人々の思想や文化を読み解くための鍵となるでしょう。

脚注

国宝「猪熊家本」は、鎌倉時代後期に書写された写本です。
『日本書紀』などの先行史料の影響がみられます。

出典

小島瓔礼 校注『風土記 （角川文庫）』角川書店、1970年、215-235頁。
https://dl.ndl.go.jp/pid/12268944/1/109

外部リンク

架蔵『肥前国風土記』写本全画像 早稲田大学 文学学術院 高松_古代和歌
* 古代土蜘蛛一覧

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