琵琶牧々

琵琶牧々（びわぼくぼく）

琵琶牧々は、江戸時代の妖怪画家・鳥山石燕が描いた妖怪画集『百器徒然袋』に登場する日本の妖怪です。その姿は、まるで琵琶が変化したかのような、独特な姿をしています。

概要

琵琶牧々は、琵琶が琵琶法師や座頭のような姿に変化した妖怪として描かれています。体は人間のような形をしていますが、頭部は琵琶そのものです。目を閉じ、杖をついている姿は、物静かで思慮深い印象を与えます。

石燕の解説文には、「玄上牧馬と言へる琵琶はいにしへの名器にしてふしぎたびたびありければ そのぼく馬（牧馬）のびは（琵琶）の転にして ぼくぼくといふにや」とあります。この解説から、「牧々」という名前は、琵琶の名器として知られる「牧馬」に由来することがわかります。また、『徒然草』の70段には「玄上」と「牧馬」が登場する話があり、石燕はここから着想を得て琵琶牧々を描いたと考えられています。

琵琶牧々のルーツは、室町時代の妖怪絵巻『百鬼夜行絵巻』に描かれている琴の妖怪を引っ張る琵琶の妖怪にあると考えられています。また、『百器徒然袋』の見開きには、同じく楽器の妖怪である琴古主が掲載されています。

浮世絵師・月岡芳年は、錦絵『百器夜行』（1865年）において、石燕の琵琶牧々を参考にしたと思われる妖怪を描いています。これは、琵琶牧々が後世の芸術家にも影響を与えた証と言えるでしょう。

玄上・牧馬

鎌倉時代の有職故実書『禁秘抄』には、「玄上（げんじょう）」と「牧馬（ぼくば）」という名高い琵琶が存在したことが記されています。特に「玄上」については、内裏が焼失した際にひとりでに外へ飛び出したり、その音色に魅せられた鬼が盗み出して朱雀門から吊り下げたりといった、数々の不思議な逸話が残されています。

これらの逸話は、琵琶が単なる楽器としてだけでなく、神秘的な力を持つ存在として捉えられていたことを示しています。琵琶牧々は、そうした琵琶にまつわる伝説や物語を背景に持つ、奥深い妖怪と言えるでしょう。

関連項目

琴古主：同じく『百器徒然袋』に登場する琴の妖怪。
三味長老：三味線の付喪神。
日本の妖怪一覧：日本の様々な妖怪に関する情報。
付喪神：長い年月を経た道具などが変化した妖怪。

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