環状星雲
こと座に輝く環状星雲は、M57やNGC 6720といったカタログ名でも知られる、典型的な惑星状星雲の一つです。私たちの地球からおよそ2600光年という距離に位置しており、その名の通り、ドーナツや指輪のような特徴的な姿を見せることから、数ある惑星状星雲の中でも特に有名で、親しみを込めて「リング星雲」や「ドーナツ星雲」とも呼ばれています。発見された惑星状星雲としては、亜鈴状星雲（M27）に続いて二番目にあたるとされています。
環状星雲の中心部には、WD 1851+329という記号で呼ばれる白色矮星が存在します。この星は、かつて太陽のような恒星が一生の終わりに近い段階で外層のガスを放出した後に残った、高温高密度の核です。放出されたガスは星雲として広がり、中心に残った白色矮星から放たれる強い紫外線エネルギーを受け取ることで、まるで蛍光灯のように明るく輝いて見えています。星雲が放つ光の色は、ガスに含まれる元素の種類によって異なります。リング部分の鮮やかな青色はヘリウムの輝線スペクトル、緑色は酸素の輝線スペクトル、そして赤色は窒素の輝線スペクトルによって生み出されています。
環状星雲は比較的明るいため、小さな天体望遠鏡でも観測が可能です。例えば、口径5センチメートル程度の望遠鏡でも、ぼんやりとしたリング状の形として捉えることができるでしょう。口径が8センチメートルになると、その形状が完全な円形ではなく、わずかに潰れた楕円形であることが分かります。さらに口径15センチメートルクラスの望遠鏡を用いると、楕円形の長い方の軸の先端部分が、他の部分と比べて少し暗く見えている様子を確認できるようになります。口径が20センチメートルを超える望遠鏡では、リング状の輪郭がより鮮明になり、細かい構造が見え始めます。ただし、星雲の中心に位置する白色矮星は非常に暗く（約15等級）、この中心星をはっきりと見るためには、最低でも口径30センチメートルクラスの、ある程度の集光力を持つ望遠鏡が必要になります。カラー写真を撮影してみると、リングの内側と外側でガスが放つ光の色合いが異なっていることがよく分かります。
環状星雲が初めて天文学者によって記録されたのは、1779年のことです。フランスの彗星探索家として知られるシャルル・メシエが、同年1月31日にこと座で発見した彗星C/1779 A1の観測を続けている最中にこの天体に偶然出会いました。メシエは、これを「こと座のガンマ星とベータ星の間にある光の集まり」と表現し、「形は丸く、非常に微かな星の集合体であるに違いないが、最高の望遠鏡でも個々の星を分離できなかったため、これは推測に過ぎない」と記しています。この記録からは、彼が天体の形を丸いとは認識しつつも、特徴的なリング状の構造までは捉えていなかったことがうかがえます。
メシエの発見の報が新聞で伝えられると、同じくフランスの天文学者であるアントワーヌ・ダルキエ・ド・ペルポワが、2月半ばに自身の口径約3インチの望遠鏡で同じ彗星を追観測している最中に、この星雲を独立して発見しました。ダルキエは環状星雲を「木星ほどの大きさで、薄められた惑星のようにぼんやりしているが、輪郭ははっきりしている」と描写しましたが、こちらもリング状の形状には言及していません。これらの初期の観測者たちは、天体の惑星のような見かけから「惑星状星雲」という名称が生まれるきっかけを作ったと言えます。
その後、イギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルは、この天体が「穴が開いた星雲」であること、中心に暗い領域があり、おそらく星が集まってできたリングであろうと詳細に記述しました。彼はその形が楕円形であり、長短軸の比がおよそ100対83であることや、光が均一ではなくまだらであることも記しています。ウィリアムの息子であるジョン・ハーシェルは、環の内部が微かな星雲状の光で満たされている様子を「タガの上にガーゼを貼ったような感じ」と表現しました。また、他の天文学者たちも、ロバート・ポールが「たばこの煙でできた環」と例えたり、ロス卿がリングの構造が分解されそうな様子や、内側に向かって枝のような構造が見られることに言及したりと、様々な言葉でそのユニークな形状を描写しています。
環状星雲の中心に鎮座する白色矮星は、リング状の構造が詳細に観測されるようになった後の1800年に、ドイツの天文学者フリードリッヒ・フォン・ハーンによって初めて発見されました。ハーンは、当時としては非常に大型であった、自身の私設天文台に備え付けられた焦点距離20フィートの反射望遠鏡を用いて、この暗い中心星を見つけ出したと伝えられています。
このように、こと座の環状星雲は、その発見から現在に至るまで、多くの天文学者や観測者を魅了し続けてきました。小口径でも形が分かり、大口径では中心星や複雑な構造が見えるという、様々な観測レベルで楽しめる天体であり、惑星状星雲の代表格として、今後も私たちの好奇心を刺激し続けるでしょう。
特徴
環状星雲の中心部には、WD 1851+329という記号で呼ばれる白色矮星が存在します。この星は、かつて太陽のような恒星が一生の終わりに近い段階で外層のガスを放出した後に残った、高温高密度の核です。放出されたガスは星雲として広がり、中心に残った白色矮星から放たれる強い紫外線エネルギーを受け取ることで、まるで蛍光灯のように明るく輝いて見えています。星雲が放つ光の色は、ガスに含まれる元素の種類によって異なります。リング部分の鮮やかな青色はヘリウムの輝線スペクトル、緑色は酸素の輝線スペクトル、そして赤色は窒素の輝線スペクトルによって生み出されています。
観測
環状星雲は比較的明るいため、小さな天体望遠鏡でも観測が可能です。例えば、口径5センチメートル程度の望遠鏡でも、ぼんやりとしたリング状の形として捉えることができるでしょう。口径が8センチメートルになると、その形状が完全な円形ではなく、わずかに潰れた楕円形であることが分かります。さらに口径15センチメートルクラスの望遠鏡を用いると、楕円形の長い方の軸の先端部分が、他の部分と比べて少し暗く見えている様子を確認できるようになります。口径が20センチメートルを超える望遠鏡では、リング状の輪郭がより鮮明になり、細かい構造が見え始めます。ただし、星雲の中心に位置する白色矮星は非常に暗く（約15等級）、この中心星をはっきりと見るためには、最低でも口径30センチメートルクラスの、ある程度の集光力を持つ望遠鏡が必要になります。カラー写真を撮影してみると、リングの内側と外側でガスが放つ光の色合いが異なっていることがよく分かります。
発見の歴史
環状星雲が初めて天文学者によって記録されたのは、1779年のことです。フランスの彗星探索家として知られるシャルル・メシエが、同年1月31日にこと座で発見した彗星C/1779 A1の観測を続けている最中にこの天体に偶然出会いました。メシエは、これを「こと座のガンマ星とベータ星の間にある光の集まり」と表現し、「形は丸く、非常に微かな星の集合体であるに違いないが、最高の望遠鏡でも個々の星を分離できなかったため、これは推測に過ぎない」と記しています。この記録からは、彼が天体の形を丸いとは認識しつつも、特徴的なリング状の構造までは捉えていなかったことがうかがえます。
メシエの発見の報が新聞で伝えられると、同じくフランスの天文学者であるアントワーヌ・ダルキエ・ド・ペルポワが、2月半ばに自身の口径約3インチの望遠鏡で同じ彗星を追観測している最中に、この星雲を独立して発見しました。ダルキエは環状星雲を「木星ほどの大きさで、薄められた惑星のようにぼんやりしているが、輪郭ははっきりしている」と描写しましたが、こちらもリング状の形状には言及していません。これらの初期の観測者たちは、天体の惑星のような見かけから「惑星状星雲」という名称が生まれるきっかけを作ったと言えます。
その後、イギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルは、この天体が「穴が開いた星雲」であること、中心に暗い領域があり、おそらく星が集まってできたリングであろうと詳細に記述しました。彼はその形が楕円形であり、長短軸の比がおよそ100対83であることや、光が均一ではなくまだらであることも記しています。ウィリアムの息子であるジョン・ハーシェルは、環の内部が微かな星雲状の光で満たされている様子を「タガの上にガーゼを貼ったような感じ」と表現しました。また、他の天文学者たちも、ロバート・ポールが「たばこの煙でできた環」と例えたり、ロス卿がリングの構造が分解されそうな様子や、内側に向かって枝のような構造が見られることに言及したりと、様々な言葉でそのユニークな形状を描写しています。
環状星雲の中心に鎮座する白色矮星は、リング状の構造が詳細に観測されるようになった後の1800年に、ドイツの天文学者フリードリッヒ・フォン・ハーンによって初めて発見されました。ハーンは、当時としては非常に大型であった、自身の私設天文台に備え付けられた焦点距離20フィートの反射望遠鏡を用いて、この暗い中心星を見つけ出したと伝えられています。
まとめ
このように、こと座の環状星雲は、その発見から現在に至るまで、多くの天文学者や観測者を魅了し続けてきました。小口径でも形が分かり、大口径では中心星や複雑な構造が見えるという、様々な観測レベルで楽しめる天体であり、惑星状星雲の代表格として、今後も私たちの好奇心を刺激し続けるでしょう。
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