生月鯨太左衛門

生月鯨太左衛門：江戸時代の伝説の巨漢力士

生月鯨太左衛門（いくづきげいたざえもん、1827年4月16日-1850年7月3日）は、江戸時代後期の力士です。長崎県平戸市生月町出身で、その身長227cm、体重169kgという巨体は、日本相撲史において類を見ない存在感を放っていました。

鯨との繋がりと壮絶な誕生

鯨太左衛門は、生月島で鯨猟師をしていた両親の元に生まれました。母親の夢に鯨が現れたという伝説や、誕生時の大きさが一般の新生児の倍もあったという逸話が残されており、その誕生からして並外れていました。

巨体ゆえの苦労と、故郷での愛

幼少期、巨体ゆえに父親の船に乗ることが叶わず、代わりに一人で船を引き上げ、水抜きをするなど、力仕事をこなしていたといいます。また、綱引きで八丁櫓の勢子船に勝利した、14歳で鯨を仕留めたなどの伝説も残っており、生月島では彼の巨体と優しさ、そして力強さが、多くの人々の記憶に刻まれていたことが伺えます。

相撲への道と華々しいデビュー

生月島での名声は全国に轟き、多くの相撲部屋から勧誘を受けました。当初両親は反対しましたが、最終的に大阪、そして江戸の玉垣部屋に入門します。18歳で初土俵を踏んだ彼は、「生月鯨太左衛門」という四股名を、平戸藩主から賜ったと伝えられています。大阪時代には「生月鯨吉」を名乗っていたという説もあります。

人気と豪快な相撲

鯨太左衛門は、その巨体と豪快な相撲で人気を博しました。張り手と突っ張りが得意技とされ、歌川豊国ら著名な絵師による錦絵も多く残されています。しかし、彼の相撲人生は、巨体お披露目的な興行が中心で、幕内在位12場所のうち実際に相撲を取ったのはわずか1場所のみでした。当時の記録には「脊高き計肉少く。階子を押立たる如くにて」とあり、縦に長い体格だったことがうかがえます。また、その巨体だけでなく、顔立ちも人気だったようです。

晩年と謎めいた死

江戸での生活では、女遊びや、一寸玉之助という女性との結婚など、様々な逸話が残されています。晩年は瘡毒(そうどく)に苦しみ、24歳という若さで亡くなりました。遺体は、松浦家の菩提寺である天祥寺の二階の長屋から天井を破って運び出されたというエピソードが残るほど、巨体だったことを物語っています。死因については、脚気、梅毒など諸説あり、明確な原因は不明です。

鯨太左衛門を偲ぶ

現在、東京都江東区の富岡八幡宮には、鯨太左衛門の巨人力士碑や手形足形碑が残され、その巨体を偲ぶことができます。また、平戸市生月町博物館には等身大の力士像があり、生月島では今もなお、彼の伝説が語り継がれています。彼の人生は、巨体ゆえの苦労と、それを乗り越えようとする力強さ、そして数々の伝説に彩られたドラマチックなものでした。彼の生き様は、現代に生きる私たちに、様々なことを伝えてくれていると言えるでしょう。

参考資料

『生月草紙』（烏亭焉馬著、歌川豊国画）
松浦史料博物館
平戸市生月町博物館 島の館
天祥寺（鯨太左衛門の墓所）

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