生物多様性基本法

生物多様性基本法とは

生物多様性基本法（平成20年法律第58号）は、我が国における生物多様性の保全とその持続可能な利用を推進するための基本的な枠組みを定める法律です。2008年6月6日に公布・施行されました。この法律は、環境基本法の下位に位置づけられる一方で、種の保存法や鳥獣保護管理法など、生物多様性に関する個別の法律に対しては上位法としての役割を果たします。与野党の共同提案による議員立法として、全会一致で可決・成立したという背景を持ちます。

制定の背景と目的

この法律が制定される以前にも、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律（1992年）、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律（2002年）、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律（2004年）などが存在しました。しかし、これらの法律は特定の生物種や問題に焦点を当てたものであり、生物多様性全体を包括的に捉えた基本となる法律はありませんでした。

生物多様性基本法は、こうした従来の法の限界を踏まえ、地球規模での気候変動や開発による環境破壊などにより生物多様性が危機に瀕している現状に対応するため、より広い視野から野生生物の種や自然環境全体の保全を目指すことを目的としています。前文では、生物多様性が人類生存の基盤であり、地域固有の文化も支えるものであること、深刻な危機に直面していること、そして人類共通の財産である生物多様性を将来世代に引き継ぐ責任があることが述べられています。この法律は、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する基本原則を明確にし、関連施策を総合的かつ計画的に進めるための指針を示します。

生物多様性の定義

この法律において、「生物多様性」は以下の3つのレベルの多様性を指すものと定義されています（第2条）。

生態系の多様性: 様々な環境に多様な生態系が存在すること。
種（種間）の多様性: 様々な生物種が存在すること。
* 種内の多様性: 同じ生物種内で遺伝的に多様であること。

基本原則と各主体の責務

法律は、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する基本原則を定めています（第3条）。また、国、地方公共団体、事業者、そして国民および民間の団体が、それぞれの立場で生物多様性の保全と持続可能な利用に取り組む責務があることを明記しています（第4条 - 第7条）。

法律の主な内容

生物多様性基本法は、以下の主要な要素で構成されています。

1. 生物多様性戦略: 国は、生物多様性の保全および持続可能な利用に関する基本的な計画として「生物多様性国家戦略」を策定する義務があります。また、地方公共団体も地域の状況に応じた「生物多様性地域戦略」を策定するよう努めるものとされています（第11条 - 第13条）。
2. 基本的施策: 国および地方公共団体が講じるべき生物多様性に関する基本的な施策について定めています（第14条 - 第27条）。これには、自然環境の保全、野生生物の保護、外来生物対策、自然との触れ合いの推進、教育・学習、調査研究などが含まれます。

特に第25条では、大規模な事業を行う際に環境への影響を事前に評価する環境アセスメントにおいて、事業計画の早期段階から生物多様性の保全の観点を取り入れた戦略的環境アセスメント（SEA）を実施するための措置を国に求めています。

構成

法律は、前文に続き、総則（第1章）、生物多様性戦略（第2章）、基本的施策（第3章）、そして附則という構成になっています。

所轄官庁

生物多様性基本法の主な所轄官庁は環境省です。

この法律は、地球規模および地域における生物多様性の重要性を認識し、将来にわたってその恵沢を享受できるよう、関係主体が一体となって保全と持続可能な利用を進めるための包括的な基盤を提供するものです。

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