絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律

絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律（種の保存法）について

概要

「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」（通称：種の保存法）は、絶滅の危機に瀕している野生動植物の種を保護することを目的とした日本の法律です。1992年（平成4年）に制定され、1993年（平成5年）に施行されました。この法律は、野生動植物が生態系において重要な役割を果たしているだけでなく、人類の豊かな生活に不可欠な自然環境の一部であるという認識に基づいています。

制定の背景

この法律は、国際的な野生動植物の取引規制であるワシントン条約を背景に制定されました。当初は、国際取引が禁止された種の取引を規制する法律がありましたが、その発展版として、より包括的な保護を目的として種の保存法が制定されました。これにより、希少な野生動植物種の保護に関する枠組みが確立されました。

法律の目的

種の保存法の目的は、絶滅の危機に瀕している野生動植物の種を保護することにより、生物多様性を確保し、良好な自然環境を保全することです。これにより、現在および将来の国民が健康で文化的な生活を送れるように貢献することを目指しています。（第1条）

主な内容

種の保存法は、主に以下の3つの柱で構成されています。

1. 個体保護: 希少野生動植物種の捕獲、所持、流通を規制し、個体を保護します。これには、生きた個体だけでなく、剥製や標本、器官なども含まれます。
2. 生息地保護: 希少野生動植物種の生息地内での開発を制限し、生息環境を保護します。
3. 保護増殖: 個体数が減少した種を回復させたり、生息環境を整備したりする保護増殖事業を行います。

法律の構成

種の保存法は、以下の章で構成されています。

第1章：総則（目的、定義など）
第2章：個体等の取扱いに関する規制（所有者の義務、捕獲・譲渡の禁止、国際希少野生動植物種の登録など）
第3章：生息地等の保護に関する規制（土地所有者の義務、生息地等保護区の設定など）
第4章：保護増殖事業（事業の内容、実施主体など）
第5章：認定希少種保全動植物園等（認定基準、手続きなど）
第6章：雑則（委任規定など）
第7章：罰則（違反行為に対する罰則）

希少野生動植物種

種の保存法では、保護対象となる種を「希少野生動植物種」として指定します。これには、以下の種類があります。

国内希少野生動植物種: 日本国内に生息・生育する絶滅のおそれのある種。
国際希少野生動植物種: ワシントン条約で取引が規制されている種。
緊急指定種: 特に保護が必要な状況にあると判断された種。

これらの種は、さらに「特定第一種国内希少野生動植物種」と「特定第二種国内希少野生動植物種」に分類され、それぞれ規制の内容が異なります。

生息地等保護区

希少野生動植物種の保護のためには、生息地・生育地の保護も重要です。そのため、種の保存法に基づき「生息地等保護区」が指定されます。この保護区内では、さらに管理地区、立入制限地区、監視地区が設けられ、それぞれ異なる規制が適用されます。

主な生息地等保護区
羽田ミヤコタナゴ生息地保護区（栃木県大田原市）
北岳キタダケソウ生育地保護区（山梨県南アルプス市）
善王寺長岡アベサンショウウオ生息地保護区（京都府京丹後市）
大岡アベサンショウウオ生息地保護区（兵庫県豊岡市）
山迫ハナシノブ生育地保護区（熊本県阿蘇郡高森町）
北伯母様ハナシノブ生育地保護区（熊本県阿蘇郡高森町）
藺牟田池ベッコウトンボ生息地保護区（鹿児島県薩摩川内市）
宇江城岳キクザトサワヘビ生息地保護区（沖縄県島尻郡久米島町）
アーラ岳キクザトサワヘビ生息地保護区（沖縄県島尻郡久米島町）
米原イシガキニイニイ生息地保護区（沖縄県石垣市）

保護増殖事業

保護増殖事業は、減少した個体数の回復や生息環境の整備を目的とした活動です。給餌、巣箱の設置、飼育下での繁殖、生息環境の改善などが含まれます。国（環境省、農林水産省など）が主体となって実施していますが、環境大臣の確認や認定を受ければ、地方公共団体や民間団体でも実施できます。

保護増殖事業の対象種例

哺乳類：ツシマヤマネコ、イリオモテヤマネコ、アマミノクロウサギ、オガサワラオオコウモリ
鳥類：アホウドリ、トキ、タンチョウ、シマフクロウ、イヌワシ、ノグチゲラなど
両生類：アベサンショウウオ
魚類：ミヤコタナゴ、スイゲンゼニタナゴ、イタセンパラ、アユモドキ
昆虫類：ベッコウトンボ、ゴイシツバメシジミ、ヤンバルテナガコガネ、ヤシャゲンゴロウなど
貝類：小笠原陸産貝類14種
植物：キタダケソウ、レブンアツモリソウ、ハナシノブ、チョウセンキバナアツモリソウなど

野生生物保護センター

全国には、希少な野生生物の保護増殖事業、調査研究、普及啓発を行うための拠点として、野生生物保護センターが設置されています。これらのセンターは、それぞれの地域で特有の野生生物の保護活動を展開しています。

主な野生生物保護センター

釧路湿原野生生物保護センター（北海道釧路市）
北海道海鳥センター（北海道苫前郡羽幌町）
猛禽類保護センター（山形県酒田市）
佐渡トキ保護センター（新潟県佐渡市）
対馬野生生物保護センター（長崎県対馬市）
奄美野生生物保護センター（鹿児島県大島郡大和村）
やんばる野生生物保護センター（沖縄県国頭郡国頭村）
西表野生生物保護センター（沖縄県八重山郡竹富町）

認定希少種保全動植物園等

種の保存法の一部改正により、希少種の保護増殖に貢献する動物園、植物園、水族館などが環境大臣から認定される制度が設けられました。認定を受けた施設は、希少種の譲渡規制の緩和などの措置を受けることができます。

主な認定施設

豊橋総合動植物公園
京都市動物園
東京都井の頭自然文化園
札幌市円山動物園
世界淡水魚園水族館
東京都葛西臨海水族園
宮崎市フェニックス自然動物園
大阪公立大学附属植物園
東京都恩賜上野動物園
富山市ファミリーパーク
沖縄美ら海水族館
仙台市八木山動物公園
鴨川シーワールド

まとめ

種の保存法は、絶滅の危機に瀕する野生動植物を保護し、生物多様性を維持するために重要な法律です。個体保護、生息地保護、保護増殖事業という三本柱を中心に、様々な取り組みが行われています。この法律は、希少な野生生物を守り、私たちの豊かな生活を支えるために不可欠なものです。

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