生田勉

生田勉：木造建築の温もりとマンフォード思想の伝道者

生田勉（いくた つとむ、1912年2月20日 - 1980年8月4日）は、日本の建築家、建築学者であり、東京大学名誉教授を務めた人物です。彼の建築作品は、木造の温かみを最大限に活かした住宅や山荘に独自の境地を切り開いたことで知られています。また、アメリカの文明批評家ルイス・マンフォードの著作を日本に紹介した人物としても、その功績は非常に大きいと言えるでしょう。

生い立ちと学歴

北海道小樽市で生まれた生田勉は、旧制第一高等学校を経て、1939年に東京帝国大学工学部建築学科を卒業しました。一高では詩人の立原道造と、大学では丹下健三、浜口隆一といった後の建築界を代表する人物と同期でした。特に立原道造とは深い親交があり、お互いに刺激し合った関係だったと言われています。また、生田はル・コルビュジエの作品や思想にも強い影響を受けていました。

キャリア

大学卒業後、生田は逓信省営繕課に勤務しましたが、1944年に旧制一高の教授に就任しました。その後、東京大学教養学部助教授、1961年には教授となり、1972年に定年退官するまで教鞭を執りました。教職の傍ら、1951年にはノースカロライナ大学の客員教授、オレゴン大学建築科での講義も行いました。

1955年には東京大学内に生田建築研究室を開設し、設計活動を本格的に開始しました。1967年には塊建築研究所を設立（後に生田勉都市建築研究室と改称）し、精力的に活動を展開しました。

作品の特徴

生田勉の建築作品は、木造の素材感を最大限に活かし、自然との調和を重視した設計が特徴です。彼の作品には、住宅、山荘、公共施設などがあり、それぞれがその土地の風土や環境に溶け込むようなデザインが施されています。代表作としては、「栗の木のある家」、「山荘デルタ」、「ぼっこ山荘」などが挙げられます。これらの作品は、日本の伝統的な木造建築の良さを再認識させるとともに、現代的な生活様式にも適応したデザインを追求しています。

マンフォード思想の紹介

生田勉は、ルイス・マンフォードの著作を翻訳し、日本に紹介したことでも知られています。マンフォードの文明批評は、当時の日本の建築界や社会に大きな影響を与えました。生田はマンフォードの思想を通して、技術の進歩と人間の幸福との関係、都市と自然との調和といった問題を提起し、日本の都市計画や建築デザインに新たな視点を与えました。

主な作品

栗の木のある家（1956）
方形の家（1957）
亀甲の家（1958）
かねおりの家（1959）
牟礼の家（1961）
山荘デルタ（1960）
ぼっこ山荘（1962）
新渡戸記念館（1964）
勤労青少年ホーム サンピア（1967）
日本近代文学館（1965）
近江八幡国民休暇村レクリエーションセンター（1966）

著作・翻訳

生田勉は、自らの設計活動や思想をまとめた著書も発表しています。

『栗の木のある家』（風信社, 1982）
『杳かなる日の 生田勉青春日記 1931～1940』（麦書房, 1983）

また、ルイス・マンフォードの著書を中心に多数の翻訳も手がけました。

L.マンフォード『人間の条件』（鎌倉書房, 1950）
ルイス・マンフォード『技術と文明』（全3冊、鎌倉書房, 1953-1954）
『ル・コルビュジエ作品集』（美術出版社, 1953）
L.マンフォード『都市の文化』（丸善, 1955）
ル・コルビュジエ『伽藍が白かつたとき』（岩波書店, 1957）

晩年と影響

生田勉は1980年8月4日に逝去しましたが、彼の建築に対する考え方やマンフォードの思想は、後世の建築家や研究者にも大きな影響を与え続けています。生田が追求した自然との調和、木造建築の温かみ、そして人間中心の視点は、今日の建築においても重要なテーマとなっています。

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