用田 (藤沢市)

用田（ようだ）

用田（ようだ）は、神奈川県藤沢市の北西部に位置する地域を指す広域地名です。歴史を辿ると、1889年までは「用田村」という独立した行政区域でしたが、その後、1955年までは高座郡御所見村に編入されました。現在は藤沢市を構成する13の行政地区のうち、御所見地区の一部として位置づけられています。行政サービスは御所見市民センターが分担しており、地域区分としては「御所見地区」の一部であると同時に、住居表示上の「用田」という呼称も並行して使われています。このように、用田という言葉は歴史的・行政的な文脈によって指す範囲が異なります。

地理と気候

用田を含む地域は、南部ほど海洋性気候の影響を強く受けます。年間を通して気温の変化が比較的穏やかで、特に冬場の冷え込みはそれほど厳しくありません。結果として、年間の気温差（年較差）は比較的小さい傾向にあります。降水量は、夏の終わりから秋にかけての秋雨前線や台風の時期にピークを迎え、梅雨期がこれに次ぐパターンを示します。風向きに関しては、年間を通して季節風よりも、日中の海風と夜間の陸風という海陸風の影響が顕著です。

地域の丘陵地帯における自然植生としては、オニシバリとコナラを中心に構成される群集が広く分布しています。また、比較的温暖な気候を示す暖帯林としては、イノデとタブノキからなる自然林も随所に見られます。

地名の由来

「用田」という地名の由来には複数の説があります。有力な説の一つは、寒川町にある寒川神社の神領地の中に、神事や祭祀に用いられる「御用田」があったことから、この地が「用田」と呼ばれるようになったというものです。別の説としては、かつてこの地域に角田氏が勢力を持っていた頃、伊豆から来た伊東氏が角田氏を打ち破り、その際に角田氏の「角」（つの、または「ク」）を取って「用田」とした、というものがあります。しかし、古い文書を調査すると、角田氏がこの地の領主であった時代には既に「用田郷」という地名が存在していたことが確認されており、御用田説の方がより蓋然性が高いと考えられています。

歴史

用田地域の歴史は非常に古く、約18,000年前にまで遡ることができます。近年実施された横浜伊勢原線用田バイパス建設工事に伴う大規模な発掘調査では、旧石器時代末期にあたる時期の貴重な遺物が大量に発見されました。この調査では、当時の人々が使用していたと考えられる土器や、生活の場であった住居跡の他、動物を捕獲するために掘られたとみられる落とし穴なども見つかっています。特筆すべきは、この時代のものとしては極めて稀な、炭化して良好な状態で残存した木材が出土したことで、当時の植生や環境を知る上で重要な手がかりとなっています。また、調査では富士山の噴火によって堆積した地層の下から、埋没したとみられる溝や道、さらには地震の痕跡なども確認されており、これらの発見から、この地域には旧石器時代末期の約18,000年前から人々が継続的に生活を営んでいたことが強く示唆されています。

近世に入ると、江戸幕府によって整備された五街道の一つである東海道の脇往還として、江戸と小田原を結ぶ中原街道が通じるようになります。用田にはこの中原街道沿いに、人や馬が休憩・交代するための「継立場」が置かれました。さらに、東海道の戸塚宿から大山阿夫利神社へ向かう巡礼道である大山道（大山街道）が用田で中原街道と交差しており、この「用田の辻」は交通の要衝として大いに賑わい、地域発展の中心となりました。

地域データ

人口・世帯数: 藤沢市の発表によれば、2023年（令和5年）9月1日現在の世帯数と人口に関するデータが示されています。また、国勢調査に基づく過去の人口・世帯数の推移も記録されています。
事業所数・従業員数: 2021年（令和3年）に実施された経済センサス調査により、地域内の事業所数と従業員数のデータが把握されています。経済センサスに基づく過去の事業所数・従業員数の推移も確認できます。
学区: 藤沢市が定める学区によれば、2015年6月時点での市立小・中学校への通学区域が指定されています。

主な社寺・文化財・年中行事

地域内には、古くから信仰を集める社寺や、地域の歴史を示す文化財などが点在しています。

仏教寺院: 示現寺、寿昌寺、薬王寺
神社: 用田寒川神社
指定・登録文化財: 藤沢市用田鳥居前遺跡出土の旧石器時代の遺跡間接合石器、西用田地蔵
年中行事:
1月上旬：初詣（各社寺）
1月中旬：どんど焼き
2月上旬：節分会（各社寺）
4月8日：花祭り（各寺）

名物・著名人・交通など

名物・名産: 地域ゆかりの名物として、「藤沢の風物語」や「御所見塚チーズケーキ」が挙げられます。
ゆかりのある著名人: 用田または御所見地区にゆかりのある著名人として、気象予報士の木原実氏、柔道選手の庄司武男氏、ロックバンド「山嵐」のメンバーである武史氏、レーシングドライバーの土屋武士氏、元サッカー選手の竹谷睦氏、ソフトボールオリンピック代表の山田恵里氏などがいます。
学校: 藤沢市立御所見中学校が地域内にあります。
交通: 神奈川中央交通（神奈中バス）の路線バスが運行しています。かつては用田寒川神社の近くに神奈中バスの用田操車所が存在しましたが、1988年に廃止されています。
その他: 日本郵便の郵便番号は252-0821で、集配業務は藤沢北郵便局が担当しています。

用田は、旧石器時代からの長い歴史を持ち、近世には交通の要衝として栄えた地域です。現在も豊かな自然と歴史・文化が共存しており、多様な側面を持つ地域と言えるでしょう。

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