田中博 (競輪選手)

田中博：孤高の競輪選手、三強の一角

田中博（たなか ひろし、1947年3月6日 - ）は、日本競輪選手会群馬支部に所属していた元競輪選手です。日本競輪学校第21期生として、スピードスケートから転身した伊藤繁、1964年東京オリンピック代表の河内剛、大宮政志ら、錚々たるメンバーと共に競輪界に足を踏み入れました。

特に、福島正幸、阿部道との三強時代は競輪史に残るもので、その中心人物の一人として名を馳せました。

デビューからGI初制覇へ

1965年9月5日、後楽園競輪場でデビュー戦を迎え、その日初勝利を飾りました。1969年には、岸和田競輪場で開催された第14回オールスター競輪でGI初優勝を果たし、三強の中で最初にGIタイトルを獲得しました。しかし、同期の伊藤繁が前年に年間3つのGIタイトルを制していたため、一番乗りとはなりませんでした。

翌1970年には、高松宮杯競輪を制し、2つ目のタイトルを獲得。この決勝戦では、2着に町田克己、3着に福島が入り、群馬勢が表彰台を独占しました。この年、福島が秩父宮妃賜杯競輪と競輪祭を制覇し、三強時代と群馬王国の基礎を築き上げました。1971年には阿部が競輪祭を制し、三強時代が確立されました。

ラインを組まない孤高のスタイル

田中は、福島とは対照的に、ラインを組んで競走することがほとんどありませんでした。これは、両者が捲りや追い込みを得意とする脚質であったことに加え、練習環境の違いも影響していたと言われています。福島は師匠の庇護の下でトレーニングを積む一方、田中は師匠を持たず、自ら練習メニューを組み立てる「一匹狼」的な存在でした。

過去に一度だけラインを組んだことがあったそうですが、連携がうまくいかなかったことで、しこりを残したとも言われています。しかし、GI決勝では田中と福島がワンツーフィニッシュを決めたレースが3回もあり、ファンは二人がラインを組まないことを特に気にしていなかったようです。レース外では普通に会話をする関係であり、ライバル心をむき出しにしていたのはレース中だけでした。

福島の全冠制覇を阻止

1970年の宮杯以降、田中はGIタイトルから遠ざかり、福島や稲村雅士が次々とGIタイトルを獲得する中、三強の中では最後にタイトルを獲得した阿部のスケールの大きさに、田中の存在感は薄れつつありました。

しかし、1974年の日本選手権競輪決勝では、阿部の捲りを封じ込めた福島が優勝目前という状況で、田中が直線で一気に追い込み、福島を捉えて優勝。福島のグランドスラム達成を阻止しました。前年のオールスター決勝では、ゴール前で福島に僅かに及ばず2着に終わっていた田中にとって、この勝利は雪辱戦となりました。

三強時代と群馬王国の終焉

1975年の日本選手権競輪では、田中は連覇を、福島は雪辱を期して決勝に進出しましたが、レース中にアクシデントが発生。最終ホーム過ぎにスパートをかけた高橋健二の動きに対応できなかった福島が落車、その影響で田中も大きくリードを許し、3着に終わりました。このレースを境に、過去5年間で11回ものGIタイトルを奪取してきた三強時代は崩壊し、群馬王国にも終焉の時が訪れることになりました。

1976年、地元前橋競輪場でのオールスター競輪では、福島が不調の中、田中は決勝に進出しましたが、優勝争いに絡むことはできませんでした。このレース以降、田中はGI決勝に進出することができませんでした。

その後、2002年8月まで現役を続けた田中は、通算771勝を挙げ、三強の中では最多勝利数を記録しました。しかし、福島や阿部のような華やかさはなく、地味な存在ではありましたが、勝負に対する執念は誰よりも強く、特に福島へのライバル心は並々ならぬものがありました。

まとめ

田中博は、競輪史に残る名選手でありながら、その内面は孤高の一匹狼でした。ラインを組まず、己の力のみを信じて戦うスタイルは、ファンを魅了し、勝負への強い執念は、多くの競輪選手に影響を与えました。地味な存在ではありましたが、その実力は三強の中でも決して劣るものではありませんでした。

関連項目

競輪選手一覧
福島正幸
* 阿部道

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