田中壱征

人物概要

田中壱征（たなかいっせい）は、日本の映像分野で多岐にわたり活動するクリエイターです。映画監督、脚本家、映像作家として作品を手がけるほか、音楽プロデューサーとしての顔も持ち合わせています。

来歴

そのキャリアは、1994年に講談社・2&4モータリング社の「ベストモータリング」映像編集部への入社から始まりました。ここでは、黒沢元治や土屋圭一といった著名なドライバーや、神谷明によるナレーションを特徴とする自動車性能比較映像の制作に携わります。編集者として働く傍ら、JAF公認の国内A級ライセンスを取得。しかし、サーキット走行においては、より自由なドリフト走行に惹かれていたといいます。

自動車業界を離れた後は、作家の開高健や沢木耕太郎の著作に触発され、20代の約半分を海外で過ごしました。ニューヨーク（アメリカ）、バンコク（タイ）、ロンドン（イギリス）などに滞在し、異文化の中で多様な経験を積みます。1998年後半には、インターネットが普及する以前の時代に、バックパッカーとして世界一周の貧乏一人旅を決行。インドでは約1ヶ月間、サイババのもとで自然哲学や宇宙論を学び、発展途上だったドバイではアラブ人の友人と共に家庭料理を習得。タイのピーピー諸島ではスキューバダイビングのライセンスを取得するも、研修中に台風に見舞われた traumatic な経験から、以降海に潜ることはなくなりました。

幼少期に両親を、10代で育ての祖父母を亡くした経験が、田中氏の人生観に大きな影響を与えています。AERAやニューヨークINFOのインタビューでは、「亡くなった家族への喪失感を乗り越え、新たな自分として海外での生活を謳歌し、ひたすら前を向きたかった」とその胸中を語っています。両親を早くに亡くした幼少期には、ザ・ドリフターズや萩本欽一のテレビ番組、キャンディーズや沢田研二、山口百恵が出演する歌番組が、心の支えとなっていたそうです。

海外生活から帰国後、一時はヴェルファーレやTGCなどエンターテイメントのステージ業界で活動していましたが、2010年に大林宣彦氏と倉本聰氏が創立した富良野塾の影響を受け、再び映像の世界へ。この決断が、映画監督への道を歩む契機となりました。

2012年には、NHKの遠藤理史氏やフジクリエイティブコーポレーションの西浦正記氏といった演出家との協業で、商業舞台の制作プロデュースを手がけます。同時期に商業映画の脚本執筆を本格化させ、2015年に長編オムニバス映画「Tokyo Loss」の製作を開始し、監督としてデビューを果たしました。

主な作品と評価

監督・脚本を務めた映画「Tokyo Loss」は、2017年10月に釜山国際映画祭で「釜山広域市議会友好作品」に認定され、2018年にはタイのバンコク、アメリカのニューヨーク、ミャンマーのヤンゴンで凱旋上映されました。

2018年2月には、アメリカ・ハリウッドで開催された第90回アカデミー賞授賞式に付随するエルトン・ジョン主催のチャリティ・ビューイング・パーティーに公式参加しています。同年10月には、文化芸術分野での功績が認められ、フランス政府認定のフランス社会功労奨励章『オフィシエ勲章』を受章しました。

2022年3月30日付で、監督・脚本作品である映画「ぬくもりの内側」が厚生労働省推薦映画に選ばれました。この作品は、2022年4月からは文化庁の主催により、全国各地の小中高等学校で授業の一環として学習上映され、約1万人の生徒が鑑賞しました。その後、2023年11月・12月にはイオンエンターテイメント系列の劇場を中心に一般公開され、東京ではロングラン上映を記録しました。

2023年には、令和4年度沖縄県後援の映画「風が通り抜ける道」が、4月16日に沖縄国際映画祭で正式出品作品として上映されます。また、同年5月にはフランスで開催されたSUPER SUTAR AWARDS CANNESで「BEST FILM AWARDS賞」を受賞。カンヌ国際映画祭期間中には、公式アテンドホテルに次ぐホテルで特別披露上映が行われ、5月23日にはカンヌ国際映画祭のレッドカーペットに登場し、フランス国営放送でその様子が世界に発信されました。この作品も、2024年1月・2月にイオンエンターテイメント系列を中心に一般公開され、東京と大阪で東西両方でのロングラン上映を達成しています。

その他の長編作品には、「時空警察ヴェッカーデッドリーナイトシェード」（音楽プロデュース）、「絆」などがあり、短編作品として「Tokyo Loss」内の「上を向いてごらん」「東京の片隅」などを監督しています。近年は、地域振興をテーマにした作品や、様々な社会問題、人間の内面に焦点を当てた作品を手がけるなど、精力的に活動を続けています。今後の作品として「Tokyo Loss2」や、会津若松市を舞台にした「ひとつに会える街」などが予定されています。

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