田中敏弘 (経済学者)

田中敏弘：思想史家としての足跡

田中敏弘（1929年5月20日-2020年3月12日）は、日本の思想史研究に多大な貢献を果たした著名な学者です。関西学院大学名誉教授、元長崎県立大学学長、元経済学史学会代表幹事などの要職を歴任しました。神戸市生まれの田中氏は、1953年に大阪商科大学（現大阪市立大学）を卒業後、関西学院大学に着任。その後、シラキュース大学、コロンビア大学大学院への留学を経て、国際的な視野を養いました。

彼のキャリアは、関西学院大学での教職を中心に展開されました。経済学部長、大学院経済学研究科委員長、図書館長など、様々な要職を歴任し、大学の発展に大きく貢献しました。1998年に関西学院大学を定年退職した後も、学界への貢献は止まることはありませんでした。2002年には長崎県立大学学長に就任し、教育者としての道を更に歩み続けました。

研究活動においては、特にイギリスやアメリカの経済思想史に深い造詣を示しました。マンデヴィルやヒュームといった18世紀の思想家から、アダム・スミス、新古典派経済学者まで、幅広い研究対象を扱っており、その業績は高く評価されています。数々の著書や論文を発表し、日本の経済思想史研究に新たな知見をもたらしました。経済学史学会やアメリカ経済思想史研究会などの学会活動にも積極的に参加し、代表幹事を務めるなど、指導的な役割を担いました。日本学術会議会員としての活動も、その学界における地位を示すものです。

田中氏の著作は多岐に渡り、その内容は専門的な研究から、より一般読者向けの解説まで多様です。代表的な著作としては、『マンデヴィルの社会・経済思想』『社会科学者としてのヒューム』『イギリス経済思想史研究』など、経済思想史を深く掘り下げた研究書が挙げられます。また、『経済学へのアプローチ』のような入門書や、『岩の上に』『風に思う空の翼』といった随筆集も著し、その幅広い知識と深い洞察力は、多くの読者に影響を与えました。これらの著作を通して、彼は経済学を単なる学問にとどまらず、社会や人間理解に繋がる学問として提示しました。

さらに、田中氏は阪神・淡路大震災を経験し、その経験に基づいた詩集『びんびんとひびいていこう』を発表しました。この詩集は、震災からの復興と人々の心の再生をテーマとしており、学究的な面だけでなく、人間的な深みも垣間見ることができます。

2008年には、瑞宝中綬章を受章。その功績は国家からも高く評価されました。2020年3月12日、急性呼吸不全のため逝去されましたが、彼の残した著作や、教育・研究活動は、後世の研究者や学生たちに大きな影響を与え続けることでしょう。

主な著書一覧

『マンデヴィルの社会・経済思想：イギリス一八世紀初期社会・経済思想』（有斐閣、1966年）
『社会科学者としてのヒューム：その経済思想を中心として』（未来社、1971年）
『経済学へのアプローチ』（玄文社、1981年）
『イギリス経済思想史研究：マンデヴィル・ヒューム・スミスとイギリス重商主義』（御茶の水書房、1984年）
『アダム・スミスの周辺：経済思想史研究余滴』（日本経済評論社、1985年）
『岩の上に：学問・思想・信仰』（玄文社、1989年）
『スコットランド啓蒙と経済学の形成』（日本経済評論社、1989年）
『古典経済学の生成と展開』（日本経済評論社、1990年）
『堀経夫博士とその経済学史研究』（玄文社、1991年）
『ヒュームとスコットランド啓蒙：18世紀イギリス経済思想史研究』（晃洋書房、1992年）
『いま経済学を学ぶ：経済と人間』（日本経済評論社、1992年）
『アメリカ経済学史研究：新古典派と制度学派を中心に』（晃洋書房、1993年）
『テキストブック近代経済学史』（山下博と共編、有斐閣、1994年）
『びんびんとひびいていこう：阪神・淡路大震災被災いちねんを覚えて 詩集』（田中ゼミナール同窓会事務局、1996年）
『経済学史研究と私：学問・思想・キリスト教』（関西学院大学出版会、1999年）
『アメリカ人の経済思想：その歴史的展開』（日本経済評論社、1999年）
『風に思う空の翼：風・光・力』（関西学院大学出版会、2001年）
『アメリカの経済思想：建国期から現代まで』（名古屋大学出版会、2002年）
* 『アメリカ新古典派経済学の成立：J.B.クラーク研究』（名古屋大学出版会、2006年）

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