田村建顕

田村建顕：学問と文化に彩られた藩主の生涯

田村建顕は、江戸時代前期から中期にかけて活躍した大名です。陸奥国岩沼藩の第2代藩主、そして田村家一関藩の初代藩主として、歴史に名を刻みました。従五位下・因幡守に叙任され、5代将軍・徳川綱吉からも重用された人物です。

生涯：岩沼から一関へ、そして幕府の中枢へ

建顕は明暦2年（1656年）、仙台藩一門・田村宗良の次男として誕生しました。幼少期から恵まれた環境で育ち、学問に励みました。父・宗良が岩沼藩3万石の大名となると世子となり、寛文4年（1664年）元服、将軍家綱に御目見するなど、順調にキャリアを積みました。

寛文10年（1670年）には従五位下・右京大夫に叙任され、延宝6年（1678年）に家督を相続します。延宝9年（1681年）には岩沼から一関に移封されました。一関藩主となってからも、その才能は高く評価され、学問への造詣の深さから、5代将軍・徳川綱吉の信頼を得て、元禄4年（1691年）には奥詰衆に、翌年には奏者番に任命されるなど、幕府の中枢で活躍しました。元禄5年（1692年）には建顕と改名しています。元禄6年（1693年）には城主格となり、家臣団の整備にも力を注ぎました。

元禄8年（1695年）には、宮床伊達家当主の養子を迎える計画もありましたが、実現せず、後に田村顕当の五男・誠顕を養子に迎えました。宝永2年（1705年）には因幡守に任官し、宝永5年（1708年）に53歳で亡くなりました。

元禄赤穂事件：建顕と浅野長矩の切腹

元禄14年（1701年）に勃発した元禄赤穂事件において、建顕は重要な役割を担いました。浅野長矩の身柄を預かり、切腹の執行に関わったのです。しかし、その対応は記録に残るほど不十分で、長矩への配慮に欠けていたとされています。長矩の遺言を隠したとも伝えられており、この事件における建顕の役割は、後世においても議論の的となっています。事件後、藩邸には浅野長矩の墓や供養塔は建てられず、戦後に建てられた碑も撤去されています。

浅野長矩が通ったとされる田村屋敷の江戸屋敷脇門は、現在も杉並区方南の念仏山東運寺の山門として現存しています。

人物像：教養豊かな「徳人」

『土芥寇讎記』では、建顕は愚鈍ではないが、特に優れた人物とも評されておらず、むしろ慎み深い人物として描かれています。しかし、幼少期から漢学、書、絵画、茶道、能、和歌、筝など、多様な教養を身につけた人物であったことが知られています。

当時、時の太鼓は皇居や一部の大名のみが許されていましたが、建顕は幕府から特別に許可を得て、一関城下で太鼓による時刻報知を実現しました。このことは、小藩ながら建顕の権威を示すエピソードと言えるでしょう。

遺品と系譜：文化への貢献

建顕は多くの書、絵画、和歌を残しており、『詠百首和歌』や東山天皇の勅点を受けた直筆の和歌を含む『田村建顕手鑑』などが現存しています。これらの遺品は、建顕が文化人としても卓越した人物であったことを示しています。

建顕の系譜は、父・田村宗良、母・山口重如の娘、正室・繁姫、そして子供たち、養子・田村誠顕らによって構成されています。彼の子女は、他の大名家との婚姻関係を通じて、政治的な繋がりを築きました。

参考文献

『一関市史』第一巻（岩手県一関市、1978年）
平成『仙台市史』通史編4〔近世2〕（宮城県仙台市、2003年）
* 『一関藩』大島晃一著（現代書館、2006年）

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