田辺徹 (美術史家)

田辺徹：美術史研究の足跡と多様な活動

田辺徹(1925-2020)氏は、日本の美術史研究に多大な貢献を果たした著名な学者です。石川県金沢市に生まれ、美術研究者であった父の影響を強く受け、幼少期から芸術に囲まれた環境で育ちました。その父、田辺孝次は東京美術学校と東京高等工芸学校の教授を務め、室生犀星とは幼馴染の間柄だったという興味深いエピソードも伝わっています。

京都大学文学部哲学科美学美術史専攻を卒業後、田辺氏は平凡社に入社。第一編集部長や月刊誌『太陽』編集長として活躍し、廃刊寸前だった『太陽』誌の復活に尽力しました。同時期には、朝倉彫塑館評議員・監事としての活動も並行して行い、美術界への貢献を着実に積み重ねていきました。平凡社勤務は1985年まで続き、その後はドイツ国立エッセン大学造形芸術学部特別研究員（1990-1991年）として海外での研究活動にも取り組みました。

1993年には成安造形大学教授に就任、1996年には同大学学長に昇任。教育者としても手腕を発揮し、2000年に退任後は名誉教授となりました。

学術研究の傍ら、田辺氏は精力的に執筆活動も行いました。主な著書には、『回想の室生犀星 文学の背景』、『国際文化関係論』、『美術批評の先駆者、岩村透 ラスキンからモリスまで』、『戦争と政治の時代を耐えた人びと 美術と音楽の戦後断想』などがあり、幅広いテーマを扱っています。これらの著作は、美術史のみならず、文化、社会、歴史といった多角的な視点から、深い洞察を示しています。また、Hokusai Tohru Tanabe, Fenice 2000.といった海外出版物にも携わっています。

さらに、共著や翻訳にも積極的に取り組み、その活動は多岐に渡ります。『ヨーロッパの美術館』、『不思議なものをつくろう』といった共著は、美術への親しみやすさを広めることに貢献しました。一方、翻訳活動では、Scala/Misuzu美術館シリーズとして、オルセ美術館、アムステルダム国立美術館、プラド美術館、ウィーン美術史美術館、ノイエ・ピナコテーク、ヴィクトリア＆アルバート美術館、ルーヴル美術館、ウフィツィ美術館といった、世界的な美術館を紹介する書籍を数多く手がけました。これらの翻訳は、日本の美術愛好家に世界各国の美術を身近に感じてもらう上で重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

田辺氏の息子、田辺清氏も美術史家として活躍しており、親子二代にわたる美術史研究の系譜が受け継がれています。

田辺徹氏の生涯は、美術史研究者、編集者、教育者、そして翻訳家としての多様な顔を持つ、充実したものでした。彼の業績は、日本の美術史研究、ひいては日本の文化の発展に大きく貢献したと言えるでしょう。その功績は、これからも広く称えられるに値するものです。

もう一度検索