由良要塞

由良要塞：大阪湾防衛の要

由良要塞は、大日本帝国陸軍によって大阪湾の防衛を目的として、紀伊半島と淡路島の間の紀淡海峡一帯に築かれた要塞です。その範囲は、淡路島の由良地区、友ヶ島群島、紀伊半島の加太・深山地区と広範囲に及び、各所に砲台や堡塁が設けられました。

要塞の構成

由良要塞は、当初3つの地区に分かれていましたが、1903年には鳴門要塞が編入され、4地区体制となりました。

由良地区

要塞の中枢を担った由良地区は、淡路島の由良（現在の洲本市由良）に位置し、要塞司令部が置かれていました。この地区には、生石山砲台、成山砲台、高崎砲台、赤松山堡塁、伊張山堡塁、生石山堡塁といった主要な施設が集中していました。運用は由良要塞重砲兵連隊が担当し、終戦時には第2総軍第15方面軍の直轄部隊となっていました。

友ヶ島地区

友ヶ島群島のうち、沖ノ島と虎島に構築された友ヶ島地区は、由良地区と並ぶ要塞の主力でした。沖ノ島には友ヶ島第一から第五砲台が、虎島には虎島堡塁が設置され、当初は和歌山側の深山重砲兵連隊が運用していましたが、後に由良要塞重砲兵連隊に編入されました。

加太・深山地区

紀伊半島の加太町（現在の和歌山市加太）を中心に、深山第一、第二砲台、男良谷砲台、水雷砲台、探照灯、城ヶ崎探照灯台、大川山堡塁、そして加太砲台など多くの施設が配置されました。この地区は、深山重砲兵連隊が運用を担当し、後に重砲兵第5連隊に改称されました。沿岸砲台群を内陸からの攻撃から防護する目的で、堡塁が設置され、補給は加太軽便鉄道（現在の南海加太線）が担っていました。

鳴門地区

鳴門海峡に位置する鳴門要塞が編入され、由良要塞の4つ目の地区となりました。この地区の詳細は、資料が限られています。

各砲台・堡塁の概要

由良地区

生石第一砲台：28cm榴弾砲6門
生石第二砲台：28cm榴弾砲6門
生石第三砲台：24cmカノン砲8門
生石第四砲台：27cmカノン砲4門
生石第五砲台：12cmカノン砲4門
成山第一砲台：15cmカノン砲2門、21cmカノン砲6門
成山第二砲台：12cmカノン砲2門、28cm榴弾砲2門
高崎砲台：24cmカノン砲8門
赤松山堡塁：9cmカノン砲6門
伊張山堡塁：9cmカノン砲4門
生石山堡塁：15cm臼砲4門

友ヶ島地区

友ヶ島第一砲台：27cmカノン砲4門
友ヶ島第二砲台：27cmカノン砲4門
友ヶ島第三砲台：28cm榴弾砲8門
友ヶ島第四砲台：28cm榴弾砲6門
友ヶ島第五砲台：12cmカノン砲6門
虎島堡塁：9cmカノン砲4門

加太・深山地区

深山第一砲台：28cm榴弾砲6門
深山第二砲台：28cm榴弾砲6門
深山第三砲台：12cmカノン砲4門
加太砲台：27cmカノン砲4門
田倉崎堡塁：28cm榴弾砲6門
大川堡塁：9cmカノン砲2門 (平時は連隊砲具庫に格納)
西ノ庄堡塁：12cmカノン砲6門 (平時は連隊砲具庫に格納)
佐瀬川堡塁：12cmカノン砲6門 (平時は連隊砲具庫に格納)
高森山堡塁：計画のみで未建設

由良要塞の歴史

1889年3月：生石山第三砲台の起工により建設開始
1896年7月：由良要塞司令部開設
1898年10月：司令部が兵庫県津名郡由良町に移転
1903年5月：鳴門要塞を吸収合併
1904年2月：日露戦争により動員下令
1913年4月：一部の砲台・堡塁の廃止方針決定

要塞人事

由良要塞には、多数の司令官や連隊長が着任しました。要塞司令官は、竹橋尚文砲兵大佐から始まり、常岡寛治中将まで、多くの将校がその任を務めました。また、要塞砲兵連隊長や深山重砲兵連隊長も交代しました。

現在の状況

第二次世界大戦終結後、由良要塞は米軍によって撤去され、その大部分が失われましたが、現在でも一部の遺構が残っています。具体的には、以下のような状況です。

生石砲台群：公園として整備され、砲台跡や棲息掩蔽部、破損した砲身が展示されています。
友ヶ島砲台群：ハイキングコース沿いに見学可能。一部崩落や不法投棄があるものの、観測所の装甲掩蓋などが残っています。2003年には土木学会選奨土木遺産に選ばれました。
虎島堡塁：煉瓦造りの掩蔽棲息部の遺構が残る。戦後、盗掘による破壊を受けている。
深山砲台群：第二砲台跡は休暇村紀州加太となり、一部の煉瓦造りの掩蔽棲息部が残っています。第一、第三砲台は比較的良好な状態で保たれています。
深山重砲兵連隊跡：休暇村加太遊園地となっており、将校集会所基礎などが残っています。
加太砲台：和歌山市立少年自然の家となっており、砲座や観測所跡が現存しています。
田倉崎砲台：少年自然の家・家族の広場として整備され、砲床の一部や棲息掩蔽部の入り口が残っています。
大川山堡塁：地表に露出しているが、樹木の繁茂が激しい。
高森山堡塁：計画案のみで、要塞地帯標が散見されます。
佐瀬川堡塁：低堡塁は炭焼き窯、掩蔽部は陶芸教室の倉庫として利用されています。
西ノ庄堡塁：和歌山県立和歌山西高等学校の敷地となっています。
深山火薬本庫: 煉瓦の瓦礫、建造物の基盤、井戸跡、小型の橋梁が2基残るのみ。
演習砲台: 砲座跡には民家が建っている。観測所、用途不明の建造物が残る。

由良要塞の遺産

由良要塞は、その歴史的価値と、残された遺構を通じて、当時の軍事施設を今に伝える貴重な遺産です。各砲台や堡塁は、その場所で様々な歴史の証人として静かに佇んでいます。

参考文献

『官報』

関連事項

* デスクリムゾン：由良要塞の実写映像が使用されたコンピュータゲーム。

由良要塞は、過去の戦争の記憶を語るだけでなく、その構造や歴史を通じて、平和の大切さを伝える存在として、今後も大切にされるべきでしょう。

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