甲斐扶佐義

甲斐 扶佐義（かい ふさよし）氏は、1949年4月18日に大分県大分市で誕生し、4歳から18歳まで同県国東半島の山香町（現杵築市）で少年期を過ごしました。その後、1968年に大分県立杵築高等学校を卒業し、京都にある同志社大学法学部政治学科へ進学しますが、後に大学を除籍しています。

京都を活動の拠点とした甲斐氏は、多岐にわたる分野でその才能を発揮しました。写真家、エッセイスト、翻訳家としての顔を持つ一方で、長年にわたり京都の文化シーンを象徴する場所となった二つの飲食店を経営しました。一つは、1972年に音楽家の岡林信康氏や中尾ハジメ氏らと共に開店し、多くの文化人や学生たちの交流の場となった喫茶店「ほんやら洞」（京都市上京区、2021年閉店）です。甲斐氏は開業から1982年まで深く関わった後、1999年には再び経営に携わっています。もう一つは、1985年に四条木屋町に開いたカフェバー「八文字屋」（京都市中京区、2017年閉店）で、ここでは随筆や評論、映画評などを掲載した情報誌「八文字屋通信」を発行し、独自の文化を発信しました。

写真家としての甲斐氏は、市井の人々や京都の日常風景を温かく見つめる独自の視点で知られています。1970年代には、大阪少年補導協会発行の「少年補導」誌にグラビア写真を連載し、1977年には最初の写真集「京都出町」を出版。京都新聞紙上でも「女と子どものいる情景」といったシリーズを連載しました。特に特徴的な活動として、1978年から1981年にかけて、鴨川のほとりや銀行の壁面、神社の境内など、屋内外の多様な公共空間で実に20回に及ぶ大規模な「青空写真展」を開催し、写真表現の可能性を追求しました。

社会活動にも積極的に関わり、「自衛隊米兵人権ホットライン」の発起人の一人となるなど、人権問題にも向き合いました。また、友人のシンガーソングライター中川五郎氏の小説に関するわいせつ裁判を支援し、その記録をまとめた編著書も出版しています。1979年にはニコラ・ガイガー氏らと「出町国際センター」の開設を試みましたが、これは短期間で終了しました。一方で、京都市北部での地域活性化イベント「出町ふれあい広場」を提案・実行するなど、地域社会への貢献も行っています。

1982年からは約10年間、京都市経済局中小企業指導所で民間診断士としても活動。写真を用いた商店街への提言などを行い、1993年にはその功績を認められ京都市長から表彰されました。1997年から1998年には京都大学総合人間学部の特別研究員として、ヨーロッパやインドを訪れ、隠れユダヤ教徒（マラーノ）の足跡を写真に収める調査を行いました。

国内外で数多くの展覧会を開催しており、ワシントン、コネチカット、ボストン、ジュネーブ、パリ、ライデンなどで作品が展示されています。日本国内でも新宿、清水寺、そして故郷京都で回顧展や大規模な青空写真展を含む写真展を多数開催し、その活動は広く評価されています。2009年には長年の写真活動が評価され、第22回京都美術文化賞を受賞しました。また、フランスの芸術団体SNBAからはPrix Jean Larivière（2014年）が贈られています。

その活動は写真集や執筆活動にも及び、京都の風景や人々、猫などをテーマにした写真集を多数刊行しています。代表的なものに「地図のない京都」「美女365日」「笑う鴨川」「京都 猫ノ泉」「京都の子どもたち」「路地裏の京都」「京都猫町ブルース」などがあり、その数は共著を含め20冊を超えます。また、著名な文化人である杉本秀太郎氏や井上章一氏、鶴見俊輔氏、司修氏、写真評論家の飯沢耕太郎氏、作家のジャン＝フィリップ・トゥーサン氏らがその著作に解説などを寄せており、幅広い交流があったことがうかがえます。スタッズ・ターケル氏の翻訳も共訳として手掛けています。京都新聞、アサヒグラフ、毎日新聞などの媒体で長年にわたりフォト＆エッセイの連載を続けるなど、執筆家としても精力的に活動しました。

甲斐扶佐義氏は、写真、執筆、翻訳、そして文化空間の経営という多角的な活動を通じて、長年にわたり京都の文化や人々と深く関わり、その足跡を写真や言葉として残した人物です。

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