男どアホウ甲子園

『男どアホウ甲子園』（おとこどアホウこうしえん）は、野球漫画界の巨匠、水島新司が佐々木守を原作に迎え、『週刊少年サンデー』にて1970年から1975年にかけて連載された熱血野球漫画です。この作品は水島新司にとって、後の膨大な野球漫画群へと繋がる「野球漫画家」としての揺るぎない地位を確立した出世作として知られています。また、1970年から1971年にはテレビアニメ化され、第19回小学館漫画賞を受賞するなど、当時の少年たちに大きな影響を与えました。

物語の概要

物語の主人公は、甲子園球場の申し子と呼ばれる投手、藤村甲子園（ふじむらこうしえん）。その名の通り、甲子園に異常なまでの情熱を燃やす彼は、唯一無二の武器である超剛速球「剛球」を駆使し、変化球をほとんど投げない「剛球一直線」のプレースタイルを貫きます。甲子園球場での活躍を夢見る彼は、最高の女房役である捕手・岩風五郎（いわかぜごろう）こと「豆タン」をはじめとする個性豊かなチームメイトたちと共に、高校野球の頂点である甲子園大会での優勝、そしてその先の阪神タイガース入団を目指して奮闘します。

ストーリー展開

藤村甲子園は、北城中学を経て南波高校に進学し、本格的に野球に打ち込みます。当初は剛球一本槍でしたが、水泳のクロールからヒントを得た「クロール投法」を開発し、その剛球にさらに磨きをかけます。しかし、野球部の内外には様々な困難が待ち受けていました。元プロ野球選手で甲子園の師匠となる鬼頭哲、極道の後継者である隻腕の強打者・丹波左文字、「東海の竜」の異名を持つ番長・神島竜矢、そして知性派の 結城翼 といったアクの強い面々との出会いと軋轢、野球部の八百長事件に端を発する暴動、失明といった仲間の危機、そして学校側の陰謀による出場停止処分など、次々と難題が立ちはだかります。甲子園は岩風と共に一度は野球部を離れ、転校や武者修行を経て南波高校に復帰。仲間との絆を深め、三年時には春・夏の甲子園大会連覇という偉業を成し遂げます。

高校卒業後のドラフトでは、意中の阪神ではなく巨人に指名されたため、これを拒否。父や仲間の助けを借りて東京大学に入学し、六大学野球でも活躍しますが、祖父によって勝手に退学届が出され、一年で東大を中退。念願の阪神タイガースに入団します。プロの世界でも剛球を武器に活躍し、物語はプロ一年目、幼い頃からの夢であった巨人軍の長嶋茂雄との対決をもってクライマックスを迎えます。

主な登場人物

藤村甲子園: 主人公。驚異的な剛球を投げる左腕投手。短気だが人を惹きつける魅力を持つ。多くの怪我を乗り越え、甲子園優勝からプロ入りを果たす。
岩風五郎（豆タン）: 甲子園のバッテリーを組む捕手。温厚で努力家。失明や病気の母の看病など苦難に見舞われるも、甲子園を支え続ける。
丹波左文字: 南波高校野球部員。極道組長の息子で隻腕ながら強打と優れた守備を見せる。後に野球部監督となり、甲子園の弟たちの世代を率いる。
神島竜矢（東海の竜）: 南波高校野球部員。元番長連合のリーダー。クールな性格で、空手で鍛えた身体能力を野球に活かす。後にプロ入りし、甲子園のチームメイトとなる。
結城翼: 南波高校野球部主将。知性派でチームをまとめる存在。非力ながらも卓越したミート技術を持つ。
藤村球之進: 甲子園の祖父。甲子園球場職員。熱狂的な阪神ファンで、時に暴走しつつも甲子園の野球人生に深く関わる。

他にも、アンダースローのライバル 池畑三四郎、巨漢の強打者 土方玄、両投げの 鬼塚幽次郎、プロのライバルとなる 小野田信長 や 風見天神丸、ゲスト出演の 景浦安武（あぶさん）など、個性豊かなキャラクターが多数登場します。連載当時の実在プロ野球選手も多数登場し、物語にリアリティと興奮を加えています。

原作の制作背景

本作は、当初水島新司が一人で執筆していましたが、彼の体調不良による休載を機に、担当編集者の発案で『柔道一直線』のメイン脚本家だった佐々木守にストーリー担当が依頼されました。水島は連載の窮状からこれを受け入れ、佐々木との共同作業が始まります。佐々木は野球の知識がほとんどなく、水島から驚かれるほどでしたが、「私が創案した人物を上手く動かしてくれた」と水島は後に語っており、佐々木のおかげで5年間の連載が続けられたと評価しています。野球の試合部分については、佐々木がストーリー構成に関わった場合でも、水島が全て作り直すという形で進行しました。連載終了後の権利関係は、水島が単独で執筆したクロスオーバー作品に本作のキャラクターが頻繁に登場することからも分かるように、ほぼ水島側に一任されていました。

テレビアニメ版

テレビアニメ『男どアホウ!甲子園』（原作と異なり感嘆符が入る）は、1970年から1971年にかけて日本テレビ系列で、月曜日から土曜日の帯番組（1話10分）として放送されました。全156回（26週分）が制作されました。

アニメ制作においては、登場人物の関西弁を巡るエピソードが有名です。初回放送後、日本テレビの上層部から「声優の関西弁があまりにひどい」と抗議が入り、標準語に変更するよう要求されました。このため第3話は標準語で放送されましたが、脚本家の一人が強く反発して降板を表明するなど問題となり、視聴者からも抗議が殺到したため、第4話以降は再び関西弁に戻されました。甲子園役の井上真樹夫は、当時は「それっぽい方言なら良い」という風潮があったと後に語っています。

アニメのストーリーは概ね原作の高校編を基にしていますが、時間の制約などから一部変更や割愛が見られます。特に、原作で重要な要素であった南波高校内の全共闘結成や学校側の八百長陰謀といった展開は描かれず、丹波グループと神島グループの対立を軸にストーリーが整理されました。結末も原作とは異なり、夏の全国大会ではなく、春の選抜大会優勝をもって物語が締めくくられています。

その後の展開

『男どアホウ甲子園』のキャラクターは、その後の水島新司作品にもたびたび登場します。続編的作品である『一球さん』や、水島作品のスター選手が集結するクロスオーバー作品『大甲子園』では、藤村甲子園や岩風五郎、丹波左文字、神島竜矢といった主要キャラクターが登場し、それぞれのその後の姿が描かれました。特に『大甲子園』では、藤村甲子園が若くしてプロ野球選手生命を終えたことなどが語られています。

さらに、水島新司の集大成ともいえる『ドカベンドリームトーナメント編』では、藤村甲子園と岩風五郎が現役の阪神タイガース選手として再登場。原作の最終回直前の設定を引き継ぎつつ、現代のプロ野球選手として描かれ、剛球に加えて変化球も操る藤村や、現役を続ける岩風の活躍が描かれました。これらの作品を通して、『男どアホウ甲子園』のキャラクターたちは世代を超えて野球ファンに親しまれ続けています。

この作品は、単なる野球漫画にとどまらず、友情、努力、根性といった少年漫画の王道を、「どアホウ」と称されるほどの情熱と真っ直ぐさで描き出し、読者に熱い感動を与えました。甲子園球場を舞台にした壮大なドラマは、今なお多くの人々の心に刻まれています。

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