男はつらいよ 寅次郎真実一路

男はつらいよ 寅次郎真実一路

『男はつらいよ 寅次郎真実一路』（おとこはつらいよ とらじろうしんじついちろ）は、1984年12月28日に封切られた日本の長編映画です。『男はつらいよ』シリーズの記念すべき第34作にあたります。

作品解説

本作は、寅次郎が見る荒唐無稽な怪獣退治の夢から幕を開けるという、シリーズの中でも異色の導入部を持ちます。夢から覚めて柴又に戻った寅次郎は、些細なことから家族と衝突し、家を飛び出してしまいます。上野の居酒屋で所持金がないことに気づき困っていたところ、偶然隣席に居合わせた大手証券会社の課長・富永健吉に助けられます。真面目ながらも寅次郎の自由な生き様に憧れを抱く富永と意気投合した寅次郎は、泥酔した彼を茨城県牛久沼近くの自宅まで送り届け、そのまま宿泊することになります。

翌朝、寅次郎は富永の妻・ふじ子（大原麗子）の存在を知ります。仕事に追われ家族との時間が少ない夫を持つふじ子の控えめながらも美しい姿に、寅次郎は次第に心を寄せ始めます。数日後、富永は過労と現実逃避から突然失踪してしまいます。夫の身を案じ憔悴するふじ子を励ますため、寅次郎は彼女と息子をとらやに招き、つかの間の団欒を提供します。

やがて、鹿児島県枕崎で富永の目撃情報が入ると、寅次郎はふじ子と共に彼を探す旅に出ます。共に旅をする中で、寅次郎はふじ子の夫への深い愛情と、どんな状況にも耐え忍ぶ覚悟を知ります。富永の足跡をたどり、懸命に捜索しますが、結局本人を見つけ出すことはできませんでした。枕崎を離れる際、ふじ子が語った「（寅さんと）一緒にあちこち歩いたでしょ。それだけでもここに来てよかったと思ってるの」という言葉は、寅次郎の心に深く刻まれます。

柴又に戻った寅次郎は、富永を思うふじ子への切ない感情と、心の奥底で富永が戻らないことを願ってしまう自身の醜い感情との葛藤に苦悩します。博やさくらにその心情を察せられ慰められるも、ふじ子への想いを断ち切るため旅に出ようと決意します。

その矢先、失踪していた富永が突然とらやに姿を現します。一瞬複雑な表情を見せた寅次郎でしたが、すぐに富永をふじ子の元へ急がせます。涙ながらに再会を喜ぶ富永一家の姿を見届けた寅次郎は、そっと彼らの前から去り、再び旅立ちます。しかし、旅先からとらやにかかってきた電話での彼の声は、重圧から解放されたかのように晴れ晴れとしていました。年が明け、とらやに届いたふじ子からの年賀状には、富永が家族と過ごす時間が増えたこと、そして寅次郎との旅の思い出がいつまでも心に残ると綴られていました。

製作背景とエピソード

本作のタイトルの「真実一路」は、詩人・北原白秋の詩『巡礼』の一節「真実 諦メ ダダ一人／真実一路ノ旅ヲ行ク」に由来しています。また、冒頭の夢のシーンに登場する怪獣は、同じ松竹製作の特撮映画『宇宙大怪獣ギララ』（1967年）から映像が流用されています。ただし、夢の中で「怪獣」と総称される存在の被り物は、東宝のゴジラを模したものでした。これは、本作公開と同じ1984年12月に、9年ぶりの新作となる『ゴジラ (1984年版)』が公開された時期と重なる興味深い一致です。

シリーズによっては飛行機が苦手という設定があった寅次郎ですが、本作ではふじ子と共に飛行機で鹿児島へ向かい、旅の終盤には飛行機での移動を示唆する台詞もあるなど、設定が柔軟に変更されています。また、とらや向かいの「江戸家」の店頭に立つ女性が本作から交代しています。

1996年8月、主演の渥美清の訃報を受けて、本作は急遽テレビ放送されました。これは、当初予定されていた映画の放送を変更して行われた追悼企画でした。

出演・スタッフ

主人公の車寅次郎を演じるのは、もちろん渥美清です。ゲストヒロインである富永ふじ子を演じたのは大原麗子、夫の富永健吉は米倉斉加年が演じました。レギュラー陣として、倍賞千恵子、下條正巳、三崎千恵子、前田吟、太宰久雄、佐藤蛾次郎、吉岡秀隆らが出演しています。寅次郎の理解者である御前様役で笠智衆も登場します。監督・原作・脚本は山田洋次、共同脚本は朝間義隆、音楽は山本直純が担当しました。

ロケ地

物語の舞台は、寅次郎のホームである東京都柴又のほか、茨城県（牛久沼、つくば市周辺）、そして物語後半の主要な舞台となる鹿児島県（枕崎、指宿、鹿児島市周辺など）です。特に鹿児島での寅次郎とふじ子の旅のシーンは、美しい風景と共に描かれています。

記録

本作は公開時に好評を博し、観客動員は約145万人、配給収入は約12億7000万円を記録しました。第3回ゴールデングロス賞の優秀銀賞やマネーメイキングスター賞を受賞しています。

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